2022年11月15日号
次回12月1日更新予定

キュレーターズノート

過去の問いを現在に引っ張り上げる──オーギカナエと牛嶋均、二人の二つの個展から

正路佐知子(福岡市美術館)

2022年07月15日号

オーギカナエと牛嶋均(ともに1963-)。佐賀と福岡、ともに九州出身の二人はそれぞれ1980年代より活動を開始し、現在は福岡県久留米を拠点に活動を続けるアーティストだ。昨年から今年にかけて、二人が開催したそれぞれ二度にわたる個展は、この20〜30年の間、芸術祭などをはじめとするアートシーンの変動にも促されるかたちで更新されてきたそれぞれの表現に対して、一度立ち止まり、振り返り、さらなる展開を目指したものだった。表現の方向性は違えど、部分的に交差する二人の個展の様子を、福岡市美術館の正路佐知子がレポートする。(artscape編集部)

Past and future これまでとこれから/永遠はなくてもつなぐことはできる smile∞torus

昨年11月と今年3月、福岡市内の二つのスペースでオーギカナエは個展を続けて開催した。福岡市大名のSRギャラリー(旧konya gallery)で開かれたひとつ目の個展「Past and future これまでとこれから」では、1992年東京渋谷のE'スペースで発表した《HOLE-洪水を見るために》が新作絵画とともに展示された。同作はキャンソン紙に描かれた「ドローイング」と、真鍮で覆われたオブジェから成る。初発表当時ギャラリーの壁面を覆い尽くしたその絵画のサイズは新たな空間には少々大きく、二つのオブジェの真鍮部分は黒く酸化していたが、オーギはそれらをできるだけそのままのかたちで提示した(オーギが新たに加えたものは、自身の身長大の真鍮製の塔の上に載せた小さなオブジェだけだった)。絵画からその活動をスタートさせたオーギの活動については資料や写真で知らなかったわけではないが、このようなかたちでその原点を体感すると、現在までの活動もより複層的に見えてくるように思える。色褪せることなく、約30年前に描かれたものとは思えない瑞々しさを湛えたその絵画は、コンクリート打ちっぱなしのギャラリー空間と驚くほど調和し、訪れた者を包んでいた。


オーギカナエ個展「Past and future これまでとこれから」展示風景(作家提供)[撮影:Kinami Ushijima]


オーギカナエ個展「Past and future これまでとこれから」展示風景(作家提供)[撮影:Kinami Ushijima]


オーギカナエは拠点を福岡に移してからは、休憩室としても使用できるようなサイトスペシフィックな空間を仮設あるいはパブリックアートとしてつくり、食に絡めたワークショップを行なってきた。福岡市美術館では「キッズスペース・森のたね」をデザインしたり、その空間を使った乳幼児向けワークショップを開いてきた。近年は希望を表わす黄色のキャラクター「イエロースマイル」を生み、移動式茶室をつくり、それを用いた茶会(オーギが茶室にこだわるのは明治から昭和にかけて活躍した茶人で茶室もつくった仰木魯堂、仰木政斎をルーツに持つことによる)なども全国で開催している。


オーギカナエ《ハローハローカナザワ(mobile smile tea room)》(2018)「東アジア文化都市2018金沢 変容する家」での展示風景(作家提供)


オーギは、コロナ禍で自分と向き合う時間が増えたことで、過去の自身の活動を振り返る気持ちになれたという。「途切れたと思っていた『これまで』は分断され忘れ去られるのではなく、『これから』につながる。そのような作業を展覧会でやってみる。」というステートメントは、現在オーギが興味を持ち取り組んでいる「トーラス(円環)」の思考と接続される。オーギは妊娠、出産、子育てを経るなかで、絵画からワークショップやプロジェクトへと活動のかたちを変えてきた。30年前、「絵は空気をつくるもの」という考えのもと東京で制作された《HOLE-洪水を見るために》の福岡での再展示は、さまざまな立場の人がほっとでき、気持ちが上向くようなひと時を過ごせる場づくりを続けてきたオーギのこれまでの活動にも結び付き、説得力あるかたちで示されたように思われた。

今年3月、同じく福岡市内にあるギャラリー・EUREKAでオーギのもうひとつの個展「永遠はなくてもつなぐことはできる smile∞torus」が開催された。本展では、ドーナツ状の円環が描かれた「トーラス」の絵画シリーズが並んだ。これからの世界は一層つながりが重要になるという確信のもと、それを形に表わす際に位相幾何学における「トーラス」に辿り着いたという。やわらかく精彩な色彩が眩しく、描く喜びや清々しい希望に満ちた空間となっていた。


オーギカナエ個展「永遠はなくてもつなぐことはできる smile∞torus」展示風景(作家提供) ©2022 EUREKA


オーギカナエ個展「永遠はなくてもつなぐことはできる smile∞torus」展示風景(作家提供) ©2022 EUREKA



オーギカナエと牛嶋均

牛嶋均が久しぶりに個展を、しかも2会場続けて行なうと聞いたときはすぐには結びつかなかったが、この7月にEUREKAでの展示「When it is happen, It is happen [part.1] buoyancy and survey」で牛嶋が、1990年代の自身のパフォーマーとしての活動や、2002年の個展および第2回福岡アジア美術トリエンナーレ出品作を強く意識して本展に臨んでいることを知り、オーギカナエの二つの個展を想起した。同時期に画家として、パフォーマーとして活動をスタートさせ、数々の展覧会へ参加し、現在も旺盛な活動を続ける二人はパートナーだ。2017年からは二人でユニット「Yappotuka(ヤポッカ)」としても活動をし、オーギが近年絵画の主題とする「トーラス」をYappotukaとしても表わしてきた。EUREKAでの牛嶋のひとつ目の個展でも、作品のなかにトーラスがあった。


牛嶋均個展「When it is happen, It is happen [part.1] buoyancy and survey」展示風景


牛嶋均個展「When it is happen, It is happen [part.1] buoyancy and survey」展示風景



When it is happen, It is happen はじまるとき、はじまる

もともと舞踏家の田中泯に出会い、パフォーマーとしてヨーロッパやアメリカで活動をスタートさせた牛嶋均は、帰国し家業の遊具製作業を手伝い(現在は代表を務める)、遊具製作やそれらのメンテナンスをしながら、作家活動を行なっている。遊具製作の技術を生かした作品は、ジャングルジムのように登って遊べ、遊具を介した人々のコミュニケーションを誘発してきた。牛嶋均の代表作が遊具を美術作品として読み替え、提示していくシリーズであることは疑いない。

EUREKAで牛嶋が見せたのは、廃棄された遊具のパーツを用いた作品と、1990年代に牛嶋が取り組んでいたドローイングと2022年制作のドローイングに加えて、2002年に三菱地所アルティアムで開催した個展にて発表し、同年の第2回福岡アジア美術トリエンナーレ2002で再構成した「人智の研究ver.1─遊具」の戦車を3Dモデルで再現した《Tank/cart. 2022》、そして当時の記録映像であった。展示スペースの中央に浮かぶのは、《buoyant slide|浮力発生装置》と題された廃棄された滑り台の一部を再利用した作品だ。モータを取り付け、振動で自ら音を出し鳴る姿に再生の意を重ね、宙に浮き、空に向かう梯子のようなその姿に「希望」を託しているという。考えてみれば、子どもたちに愛されてきた遊具は希望を体現するものとも言える。

しかし、1990年代から描いてきた顔のドローイングの制作動機は「怒り」にあったというし、今回展示されている3Dモデル《Tank/cart. 2022》の元となった「人智の研究ver.1─遊具」の戦車は、アメリカ同時多発テロ事件後のアフガン侵攻において殺人、破壊のための機械を人間が生み出してきたという事実を改めて目の当たりにし、「この社会に自分の意見を」「自分の出来ることで表現」しようとつくられたものだった。


牛嶋均個展「When it is happen, It is happen [part.1] buoyancy and survey」展示風景


牛嶋均個展「When it is happen, It is happen [part.1] buoyancy and survey」展示風景


遊具で武器や戦闘機械をつくることは、反戦・反暴力の表現のひとつとも言えるが、牛嶋はそれだけで終わるのも問題だと考えていた。むしろ展示会場で子どもたちが戦争を想起させる(実物大の戦車の形をした)遊具で遊ぶという光景が、どのような反応を生み、議論を引き起こすのかに関心があったという。しかしその遊具=戦車は、三菱地所アルティアムの個展で発表されたのち、福岡アジア美術トリエンナーレでは初日に予定通り解体され、リヤカーに再生。会場では牛嶋の交流事業として段ボールを用いた基地づくりワークショップが連日開かれ、リヤカーは段ボールを運ぶのに使用された。このとき「基地」は軍用基地ではなく子どもたちの秘密基地として解釈され、当初の、私たち人間が殺人機械、破壊の機械を生み出してきたことに対する作家の意識は作品の外観からは窺えないものとなってしまう。当初のコンセプトはあっという間に隅に追いやられ、ワークショップではつくる楽しさが前面に躍ることになる。

今回、自発的に行なうことに決めた個展で、牛嶋は武器や戦闘機を模した遊具ではなく、廃棄された遊具のパーツを組み合わせ、戦争や天災の最中にある状態を想起させるオブジェを展示した。背景には、ウクライナ侵攻とその報道で目にする痛ましい光景があった。空に向かう梯子のような新作《buoyant slide|浮力発生装置》も、廃棄された遊具の再利用であるため、塗料は剥がれ、錆び、いまにも朽ちそうな姿でもある。

福岡県の小倉にあるGALLERY SOAPで遅れてスタートした「When it is happen, It is happen [part.2] aufheben」では、同じく廃棄された遊具を用い、今度は複数組み合わせた大型の立体作品が天井から吊り下がっている。それは美術作品への再生ではあるが、対象を破壊すべく彼方へ発せられたミサイルのように見える。牛嶋は「私は宇宙開発や原子力開発は人類の希望の方向のひとつという時代に育った世代だが、同時にそれが音を立てて崩れていくのを体験した世代でもある」と語る。「希望」と「破壊」がぶつかり、次の次元へと向かう(aufheben)ことはできるだろうか。2会場の展示で牛嶋が20年ぶりに放つ作品そして問いは、福岡でどのように受けとめられるだろうか。


牛嶋均個展「When it is happen, It is happen [part.2] aufheben」展示風景(作家提供)


牛嶋均《ミサイル(廃棄された遊具)》制作風景(作家提供)



過去と現在を見つめる

オーギカナエと牛嶋均はそれぞれ、過去の活動や問いを自らの手で現在に引っ張り上げた。過去作品は、二人の近年の各活動において固定化されがちだったイメージ(オーギカナエは和やかでポジティブなワークショップ、牛嶋均は遊具機能を有した立体作品)を軽やかに裏切りながら、しかしそれらにつながる活動の原点の在処を指し示していた。

オーギが昨年と今年の3月に行なった展示活動が牛嶋に影響を与え、この7月の二つの個展で久しぶりに自分の問題意識に立ち返らせたとも言える。二人は表現手法も、考え方ももちろん同一ではない。しかしそれぞれに、過酷で生きづらい日々のなか、核心を直視しないよう教育されてきた私たちに、立ち止まり振り返る機会をくれた。それは20年あるいは30年近く前の作品のなかで取り組まれた問題や主題についてだけではない。二人が過去に大規模なインスタレーションや大型作品を発表する機会をもたらしたアートプロジェクトや、芸術祭、展覧会をいくつも生んできた福岡のアートをめぐる状況とその変化についても、思い至らせるものであった。




オーギカナエ個展「Past and future これまでとこれから」

会期:2021年11月8日(月)〜11月14日(日)
会場:SRギャラリー(旧・konya2023/福岡県福岡市中央区大名1-14-28 第一村松ビル2階201)


オーギカナエ個展「永遠はなくてもつなぐことはできる smile∞torus」

会期:2022年3月5日(土)〜3月26日(土)
会場:EUREKA(福岡県福岡市中央区大手門2-9-30 Pond Mum KⅣ)


牛嶋均個展「When it is happen, It is happen [part.1] buoyancy and survey」

会期:2022年6月25日(土)〜7月16日(土)
会場:EUREKA(福岡県福岡市中央区大手門2-9-30 Pond Mum KⅣ)


牛嶋均個展「When it is happen, It is happen [part.2] aufheben」

会期:2022年7月9日(土)〜7月24日(日)
会場:GALLERY SOAP(福岡県北九州市小倉北区鍛冶町1-8-23 2F)

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