キュレーターズノート
第4回福岡アジア美術トリエンナーレ/美術館をひろげる・ふかめる
山口洋三(福岡市美術館)
2009年11月15日号
学芸員レポート
前回の筆者のレポートで書いた福岡市美術館開館30周年記念「コレクション/コネクション」はすでに終了している。展示の様子と事業概要は、その時に紹介しているので、ここでは、関連事業「美術館をひろげる・ふかめる」のうち、前回写真付きで紹介できなかったイベント(折元立身のパフォーマンス、さとうりさの展示、灯明ウォッチング)について紹介したい。ジュニアキュレーターについては熊本市現代美術館の坂本さんが書いてくださった。
折元は、館内で《指人形》、そして館外にでて《パン人間》を開催した。特に後者では九州産業大学の学生に参加を呼びかけ、彼らとともに繁華街である天神から美術館までのコースを練り歩いた(途中地下鉄も利用)。
さとうりさの《Risa Campaign vol.11》では、おなじみの巨大なバルーン人形を、福岡市美術館のほか、前述の福岡アジア美術館、そして福岡県立美術館を1日で「巡回」展示した。こういう作品を置くとそれぞれの館の空間特性がよくわかる。県立美術館のみ屋外となったが、このときは晴天ながら強烈な風にあおられたので、柱と壁の間に作品をはさみこんだかたちとなった。
「灯明ウォッチング」は、美術館建築周辺を灯明で飾るイベントだったが、開催予定日だった9月12日は朝から雨(……前日まで快晴だったのに)。翌13日に延期したが、12日参加予定のボランティアや制作スタッフの中には13日には参加不可能という方も多く、一時は開催が不安視された(というか私自身完全に戦意喪失状態。やばい)。それでも気を取り直して準備を進め、13日夜には実現された。その成果は写真をご覧いただきたい。美術館のある大濠公園はジョギングを楽しむ市民の方がつねに多数いらっしゃるが、そうした方々も含め、多数の来場者があり、喜ばれた。このために開館時間も2時間延長。外に灯明の光、そして館内のロビーには中西信洋の映像作品が明滅していて、この2時間ほどの風景はじつに美しいものだった。災い転じて福となす。
福岡市文化芸術振興財団との共催事業でとりわけ興味深かったのは、野村誠による《コレコネ組曲》だ。野村のナビゲートのもと、参加者が展示作品を見ながら即興で作曲・演奏する3日間のワークショップで、ここで制作された曲を野村がピアノ向けに編曲し、合計で20近い作品の楽譜が出来上がった。ワークショップは8月中旬に行なわれ、9月上旬には楽譜が完成し、「コレクション/コネクション」会場で配布された。このとき制作された楽曲は11月21日に、福岡アジア美術館にて野村の手により上演される。彼は先述のFT4の出品作家の1人でもあり、野村を介して3者が連携し合ったかたちとなった。作品を見ながら音を出す、と聞けばあまり斬新には聞こえないかもしれない(というか私自身どういう効果が上がるのか想像できなかったので)。しかしワークショップを見学してわかったのだが、作品を見て音を出すには、作品を仔細に見つめる必要がある。言葉で記述する作業とは違った意味で、作品の中に入っていく必要がある。そうした発見もあり、異なったジャンル同士の出会い、普段は別個に存在する機関同士の連携は時には必要なことだと認識した夏と秋だった。
それから、たびたびこの欄で紹介していた中ハシ克シゲの「震電プロジェクト」は、このような結末を迎えました。こちらも連携がうまくいきました。これで彼の「ゼロプロジェクト」も完結です。
折元立身パフォーマンス《Finger Dolls(指人形)》
会場:福岡市美術館・1階ロビー
会期:2009年8月8日(土)、14:00〜14:30
折元立身パフォーマンス《パン人間》
会場:福岡市役所〜天神〜大濠公園
会期:2009年8月22日(土)、15:00〜17:00
さとうりさ《Risa Campaign vol.11 [working, now]》
会場:福岡市美術館・1階ロビー(9:30〜12:00)
福岡アジア美術館・7階ラウンジ(13:00〜15:00)
福岡県立美術館・玄関付近(16:00〜18:00)
会期:2009年9月19日(土)
灯明ウォッチング in 福岡市美術館
日時:9月13日(日)、18:00〜21:00
野村誠による「コレコネ組曲」
会場:福岡市美術館
会期:2009年8月18日(火)・19日(水)・20日(木)、15:30〜18:30