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カイユボット展──都市の印象派、ブリヂストン美術館にて開催
artscape編集部
2013年07月15日号
対象美術館
今秋10月10日より、印象派の画家、ギュスターヴ・カイユボットの日本初の回顧展が開催される。ここでは、去る6月19日に展覧会場のブリヂストン美術館で行なわれた記者会見の内容を踏まえながら、本展の概要を紹介したい。
画家としてのカイユボット
ギュスターヴ・カイユボット(1848-1894。以下、カイユボット)は、モネ、ルノワール、ドガをはじめとする印象派の画家たちとの交流のなかで、会場の手配や資金的援助によって印象派展の開催に尽力し、また、作品購入をとおして同時期の作家たちの活動をサポートしたことで知られている。一方で、画家として作品も残しており、1876年の第2回印象派展へ初出品し、それ以降も同展での発表を続けた。本展では、画家としてのカイユボットに注目し、印象派展への出品作12点をはじめ、初期から晩年までの作品を紹介する。
記者発表の席上において、ブリヂストン美術館学芸課長の新畑泰秀氏は、こうしたカイユボットの活動を踏まえながら、本展のポイントとして以下の4点を挙げた。
1──知られざる画家の全貌を紹介する日本初の回顧展
2──「印象派展」出品作など代表作を展示
3──世界各地の美術館に加え、個人所有の秘蔵コレクションから出品
4──弟マルシャル・カイユボットの撮影による19世紀後半の都市風景・風俗などの貴重な写真作品も併せて展示
注目すべきは、個人コレクションが多数含まれることだろう。これまでカイユボットの作品は、公の場で目にする機会が少なかった。その理由は、第一にパリの裕福な実業家のもとに生まれたカイユボットは自らの作品を含めたコレクションを売却する必要がなかったこと、第二に遺言書でフランス国家への寄贈を希望したものの国立美術館での展示を条件としたことで受け入れが難航したことによる。そのため、今回の展示では、フランス、スイス、アメリカ、ドイツ、オーストラリアの各国の美術館所蔵作品に加え、こうした個人コレクションも展示される。
「都市の印象派」とは?
ところで、本展タイトルの副題として記された「都市の印象派」とは、カイユボットを語るうえでどのような意味を持つのか。
会見で新畑氏は、「近年、印象派によって描かれたの都市風俗への関心が集まっている」と述べ、さらに、オルセー美術館(「印象派とモード」展 )とメトロポリタン美術館での展示(「印象派、ファッション、そして近代化」展 )を例に挙げながら、本展もこうした国際的な印象派理解の最新動向を意識した内容であることが伝えられた。今回の展覧会場では自画像からはじまり作品のテーマを都市の風景や風俗へと展開させていく、全9部からなる下記の展示構成を予定している 。
1──自画像[《自画像》]
2──室内の情景[《ピアノのレッスン》《昼食》]
3──窓辺の情景[《上から見下ろした大通り》《ピアノを弾く若い男》]
4──近代都市の風景[《ヨーロッパ橋》《パリの通り(エスキス)》]
5──水辺の風景[《シルクハットをかぶったボート漕ぎ》]
6──庭園と田園風景[《ジュヌヴィリエの平原、黄色の丘》]
7──静物[《静物、鶏肉と吊るされたジビエ》]
8──素描[《傘をさしてすれ違う男たち》]
9──弟マルシャル・カイユボットの写真作品[《ギュスターヴと犬のルジェール、カルーゼル広場》《バルコニーから見下ろすマルシャル》]
カイユボットが描く都市の風景は、当時の近代都市パリの生活や風俗を知る手がかりでもある。同時に展示される弟のマルシャル・カイユボットによる写真も、本展において重要な位置を占めており、絵画と写真を比較することが、印象派の活動や19世紀末の近代都市を考える契機のひとつとなっている。
都市の経験/展覧会の経験
カイユボットが描き、弟のマルシャル・カイユボットが撮影したパリの都市風景は、実際の場所をモチーフにしている。ゆえに本展では、「パリの地図」「カイユボットの絵画」「現在の風景」を関連付け、多角的な作品鑑賞をうながす設えも用意するという。より深く美術作品を理解する手立てという意味で、展示方法の試みにも注目したい。