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ブリヂストン美術館「カイユボット展──都市の印象派」におけるデジタル鑑賞システム
artscape編集部
2013年11月01日号
ブリヂストン美術館「カイユボット展──都市の印象派」は、日本における初の回顧展である。ギュスターヴ・カイユボットは、モネやルノワールとともに印象派を代表する画家のひとり。コレクターとしての評価が先立っていたが、近年、作品の再評価が進んでいる。
この展覧会は初の回顧展であると同時に、ブリヂストン美術館が初めてデジタル鑑賞システムを導入した展覧会である。企画展の会場内に設置されたデジタル鑑賞システムを中心にレポートを行ないたい。なお、一連のシステムは、ブリヂストン美術館が大日本印刷のデジタル展示技術を活用し導入したものである。
ウェルカムボード
エントランスホールで、来館者が最初に目にするのは、カイユボットの世界観を映像で演出しているウェルカムボードである。
そこには、カイユボットの代表作品のひとつ、《ペリソワール》にアニメーション効果が加えられており、水面が揺らぎによってカイユボットが捉えた光の世界が演出され、展覧会への期待感を高めている。
見どころルーペ
2室には、美術館の所蔵するカイユボットの《ピアノを弾く若い男》(ブリヂストン美術館所蔵)と、19世紀にフランスで製造されたエラール社のピアノの現物が展示されている。この部屋には、作品を選択すると指された箇所が拡大されて表示されるシステム「見どころルーペ」が設置されている。「見どころルーペ」は、肉眼では気づきにくい、作品の細部、技巧などの精緻な表現や主題などといった見どころを、デジタルルーペで拡大しながら鑑賞できるシステムである。
例えば《ピアノを弾く若い男》を選択し、作品を拡大して見ていくと「ピアノの鍵盤の蓋に示された『ERARD』の文字、そこに映る鍵盤と彼の指」、《鶏と猟鳥の陳列》(個人蔵)では「粗い筆致で羽毛の質感と肉塊の本質の表現に挑戦している」など、見どころコメントが表示され、作品への興味や理解を深めることができる。
タッチパネルディスプレイに触れると作品が拡大表示されるシンプルなつくりなので、来館者の年代に関係なく直感的に操作でき、作品理解を深めるツールとなっている。
映像年表「カイユボットとその時代」
展覧会会場の廊下には、カイユボットの年表と関連映像が投影される「映像年表」が設置されている。従来の文字情報だけの年表に映像が加わることで、カイユボットの人生がよりわかりやすく浮かび上がってくる。カイユボットが生活をした建物や、印象派展に出品された作品など、各年号に関連する画像が次々に出てきて、約4分間弱で一巡する。画像が付加されることで、画家の人生への興味が喚起されて、より作家への理解を深めることができる、新しい年表の見せ方になっている。
インタラクティブマップ「カイユボットと19世紀のパリ」
6室は、カイユボットの暮らしたパリの街を散策できるような場所である。この部屋には、カイユボットにゆかりの深い8区を中心としたパリの地図が床面に敷いてあり、そこから立ち上がるように5台のタブレットが設置してある。タブレットを設置してある箇所は、カイユボットが住んでいた場所や、作品が描かれた場所、印象派展が開催された場所である。タブレットを覗き込みタッチパネルに触れると、まさにその場所で描かれた作品や、当時の、あるいは現代の写真、地図が展開していく。来館者は床面の地図のなかから知っている場所を探したり、タブレットを通して、カイユボットの時代と現代を行き来しながら、作品理解を深め、パリの街の空間を追体験することができる。
相関図「カイユボットをめぐる人々」
第7室には、カイユボットをめぐる「相関図」のタッチパネルディスプレイが設置されている。カイユボットは印象派の画家であったが、コレクターでもあった。相関図では、コレクターの視点から見た印象派の画家との関係と、家族との関係の2つの切り口が用意されている。
例えば、モネやピサロ、セザンヌなどの自画像に触れると画面が展開し、カイユボットが彼らに行なった資金援助や、購入した作品、作家同士の仲のよし悪しが表示されていくので、楽しみながら印象派の画家たちの一面に触れることができる。モネの画面では、「初期の印象派展より、同派を先導した画家。カイユボットは早くからモネの絵画を購入し、資金援助することも多かった」などと表示され、他の画家との関係も知りたくなるような内容となっている。
カイユボット展とは別に、所蔵作品を中心としたコレクション展示も行なわれており、相関図に登場した印象派の画家たちの作品を見ることもできるので、楽しみの広がるコンテンツであると言える。
展覧会の作品にデジタル鑑賞システムを加えることで、来館者が自ら参加しながら作品理解を深め、新しい鑑賞体験を行なうことができる。訪れた人と美術の距離が縮まる、このようなデジタル鑑賞システムを美術館等が導入する動きが、今後増えていくことを期待する。
カイユボット展──都市の印象派