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国立西洋美術館「ジャック・カロ─リアリズムと奇想の劇場」──美術の見かたをより豊かにするデジタル鑑賞ツール「みどころルーペ」の導入
artscape編集部
2014年05月15日号
対象美術館
2014年4月8日から6月15日まで、国立西洋美術館にて「ジャック・カロ─リアリズムと奇想の劇場」が開催されている。ジャック・カロ(1592-1635)は、西洋美術史を代表する版画家のひとり。今回の展覧会では、国立西洋美術館のコレクションをもとに、彼の初期から晩年までの活動の軌跡を、年代と主題という二つの側面から紹介している。展示された約220点の作品から、カロの独特の版画の世界を見ることができる。
会場内には、DNP大日本印刷のデジタル展示技術によって開発された鑑賞システム「みどころルーペ」が導入されている。「みどころルーペ」は、タッチパネルディスプレイを用い、肉眼では気づきにくい作品の細部、技巧などの精緻な表現をデジタルルーペで拡大して観察できる美術鑑賞システムで、展覧会内では、II室の《インプルネータの市》とⅣ室の《ナンシーの競技場》の2作品を対象に1台ずつ設置されている。
そのひとつである《インプルネータの市》は、カロが若い頃に滞在したイタリアで、メディチ家の宮廷附き版画家に抜擢された時代の作品で、カロの作品のなかでは、大きいサイズのもののひとつである。この絵には、フィレンツェの南に位置するインプルネータ村の市の様子が細密に描かれている。
46インチのタッチパネルディスプレイには、作品とほぼ同じサイズの作品画像が表示されている。作品画像に触れると、デジタルルーペが現われ、触れた箇所が拡大されるため、動かしながら作品の中に描かれたさまざまな事象を確認することができる。
例えば、作品の中央辺りを触ると、「天幕の下で喧嘩が始まりました。イスを振り上げる人が見えます」など、簡単な解説が現われ、カロの活き活きとした人物描写を確認することができる。その他、露天商や見世物、ダンスやボーリングを楽しむ人など、当時の街の喧騒がいまにも聞こえてきそうで、見る人の想像力をかきたて、作品への興味や理解を深めることができる。
会場に展示されているカロの他の作品についても、その緻密な描写や細部を見たい衝動に駆られる。「みどころルーペ」が来館者と作品との距離を縮め、鑑賞する楽しさを味わうための手助けとなっていくことを期待したい。
ジャック・カロ─リアリズムと奇想の劇場