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国立西洋美術館「橋本コレクション 指輪」──観覧への期待感が高まるデジタルガイダンスパネルの導入
artscape編集部
2014年08月15日号
対象美術館
2014年7月8日から9月15日まで、国立西洋美術館にて、同館および東京新聞主催の「橋本コレクション 指輪 神々の時代から現代まで──時を超える輝き」が開催されている。2012年に国立西洋美術館に寄贈された「橋本コレクション」を記念する企画で、約300点の指輪を一挙に公開、初披露の場となった。
指輪は、紀元前約2000年のエジプトのお守りとされたスカラベ(フンコロガシを象った指輪)から、現代のカルティエやブルガリまで、4,000年にもわたる歴史がある。本展ではバラエティ豊かな指輪の世界を、新しい切り口から捉え、指輪というものの本来の価値や意味を知ってもらうための、8つの章から構成されている。
なかでも、本展を特長づけているのが、第7章「モードと指輪」である。この章では、神戸ファッション美術館の所蔵する、18世紀から20世紀の衣装とともに指輪を展示し、各時代のモードのなかに指輪を位置づけている。また、さらに国立西洋美術館の特長を活かし、指輪に表わされた小世界を、同館所蔵の絵画や版画、彫刻と結びつけることで、新旧のコレクションの融合を図った展示となっている。
展覧会の構成は通常、観覧中に章解説パネル等で理解しながら、次の章へ進んでいくため、展覧会を最後まで見終わらないとなかなか全容が掴みにくいものである。限られた時間内で観覧しなければならない場合など、後半が急ぎ足になってしまう、という体験も多いだろう。本展では、こうした課題を解消すべく、展覧会を見る前のオリエンテーションツールとして、入り口手前のスペースに章立てと主な展示作品が概観できる「ガイダンスパネル」が設置されている。DNP大日本印刷の協力による大型タッチディスプレイには、1章から8章までの章タイトルが表示され、来館者が見たい章に触れると、各章の簡単な解説や代表的な指輪作品の拡大画像が表示される。複数人が同時に操作することも可能だ。
展示の全容が概観できることで、予め観覧の配分を計画することもでき、また自分の気になった指輪を探すきっかけにもなり、観覧のオリエンテーションとして有効なツールとなっている。
第5章の「死と婚礼」を例にあげてみよう。この章では「愛する二人のように重ねてひとつとなるギメル(双子)・リングや、故人の遺髪を納めるメモリアル・リングなど、人生の節目となる婚礼や死において、象徴的な役割を果たした指輪」がテーマであることがわかり、代表的なギメル・リングやメモリアル・リングが閲覧できる。こうした事前の情報は、実際の鑑賞への期待感を高めてくれる。
このように、一口に指輪と言っても、そのジャンルや時代、目的や用途はさまざまで、幅広く、奥深い。こうしたデジタルツールの活用が、展覧会の理解、作品への興味、そして広くは美術を楽しむことへの入り口になっていくことに期待したい。
橋本コレクション 指輪 神々の時代から現代まで──時を超える輝き