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建築アーカイブ整備に向けての第一歩──国立近現代建築資料館開館に寄せて

五十嵐太郎(東北大学教授/建築史、建築批評)2013年05月15日号

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 5月、国立近現代建築資料館が湯島にオープンした。名誉館長は建築家の安藤忠雄。場所は旧岩崎邸の隣である。


旧岩崎邸と近現代建築資料館

建築資料にみる東京オリンピック

 その開館を記念した特別展示として「建築資料にみる東京オリンピック」が開催されている。現在、東京オリンピック2020を誘致する活動が盛んだが、この展示の第三部では、メインスタジアムのコンペで最優秀案になったザハ・ハディドのプロジェクトを中心に、最後まで競ったSANAAほかの案が並ぶ。風洞実験用につくられたザハの模型も見ることができる。もっとも、本施設の特徴から言えば、第一部「1964国立代々木競技場」と第二部「意匠と技術」の展示が重要だろう。ここでは、独立行政法人日本スポーツ振興センター、ハーバード大学、丹下都市建築設計、文部科学省、清水建設、川口衛構造設計事務所、大林組などの各所から借りた当時の図面、写真、映像、模型などを集めている。海外での広報に活用された模型、異なる段階の国立代々木競技場の案、構造や設備の図面、ディテール、建設の様子などが、司法研修所の講堂をリノベーションした空間に並ぶ。
 リングを描く展示台に模型や図面を置くが、これらの什器や壁は同時に図面の収蔵庫も兼ねている。オープンしたばかりの現在、ここはまだ資料を入れていないが、将来的には資料を充実させ、展示として見ることもできるようにするという。ちょうど国立近代美術館でも、「東京オリンピック1964──デザインプロジェクト」展を開催しているが、国立近現代建築資料館では、こうした展示を契機に関連資料の在処を確認し、場合によってはそれらを預かることも考えているようだ。したがって、スペクタクルな展示を狙ったものではない。近年、美術館でも建築を紹介する展覧会が増えているが、やはりそれらはアートとしての建築に集中している。こうした華やかなイメージを期待して、国立近現代建築資料館を訪れると、その印象はやや地味に思われるかもしれない。国立代々木競技場の巨大な模型やインスタレーションがあるわけではないからだ。


近現代建築資料館(エントランス)


同(資料室)

超長期的に建築資料を保存する「国立」の施設

 実際、国立近現代建築資料館の目的は、美術館とは違う。名称が「博物館」や「美術館」ではなく、「資料館」となっているのも、「アーカイブズ(Archives)」という英訳に対応しているからだ。パリのポンピドゥー・センターやニューヨークのMoMAは、建築部門の展示をもっているが、なるほどアートピースとしての建築というニュアンスも強い。それに対し、国立近現代建築資料館は、オブジェとしての模型、巨匠のドローイングも入るかもしれないが、むしろこうした枠組に入らない関連資料も集めることが特徴だろう。ここの事業概要は、「1. 情報収集、2. 資料の収集・保管、3. 展示・教育普及、4. 調査研究等」となっている。動員を稼ぐ展覧会ではなく、まずは今まさに散逸し、失われようとする近現代建築のアーカイブを構築すること。すでにメタボリズムほか、日本の建築資料は海外に流失している。放置しておけば、かつての浮世絵や日本の古美術のようになるだろう。
 もうひとつ特筆すべきなのは、これが「国立」であることだ。発足したばかりだから、規模はまだ大きくないし、新築したハコをもっているわけでもない。また、これまでにも大学や関連機関でそれぞれの建築の資料を収集しているところは存在していた。しかし、今回、初めて建築資料を専門とする国立の施設が誕生した。このことの意味は大きい。超長期的に建築資料を保管できるからだ。考えてみると、意外にほかの分野でもこうした施設はあまりない。平成23年2月8日に閣議決定された「文化芸術の振興に関する基本的な方針(第3次基本方針)」の「重点戦略4:文化芸術の次世代への確実な継承」にて、以下のように記されていたことをもとに、この施設は始動することになった。「文化芸術分野のアーカイブ構築に向け、可能な分野から作品、資料等の所在情報の収集や所蔵作品の目録(資料台帳)の整備を進めるとともに、その積極的な活用を図る」。


同(ロビー)


同(収蔵庫)

〈資料保存〉という使命

 日本の現代建築は世界的に高く評価されている。だが、それがどこからやってきて、どのような道で今に至るのかを資料を通じて、まとめて知るすべがなかった。そうした意味で、国立近現代建築資料館は、建築アーカイブ整備に向けての第一歩である。現在、国立デザイン美術館をつくる会の動きも活発だ。4月に筆者はせんだいメディアテークで開催されたこの会に登壇し、一般からの意見を紹介する役割を担った。そのとき、若い学生が「国立」を批判し、いまの時代はクラウドファンディングで、どんどん民間ベースにやるべきだと述べていた。なるほど、いかにも流行のキーワードを散りばめた今風の提案だが、目立つ企画展示だけで動くならば、それでいいかもしれない。5年か10年はもつアイデアだが、一方でこうした施設が資料保存という重要な使命をもつことがしばしば忘れられている。長期的にみると、企画展よりも膨大なアーカイブの力が確実に効いてくるはずだ。


同(エントランス)
以上、すべて撮影=文化庁

国立近現代建築資料館(National Archives of Modern Architecture, Agency for Cultural Affairs)

東京都文京区湯島4-6-15/Tel. 03-3812-3401
4-6-15 Yushima, Bunkyo-ku, Tokyo, Japan

開館記念特別展示「建築資料にみる東京オリンピック──1964年国立代々木競技場から2020年新国立競技場へ」

会期:2013年5月8日(水)〜6月14日(金)
*入館には事前申し込みが必要
*都立旧岩崎邸庭園から入館する場合は事前申込は不要。ただし、庭園入園料 (旧岩崎邸庭園の入園料=一般400円)が必要

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五十嵐太郎

1967年生まれ。東北大学教授。建築史、建築批評。著書=『終わりの建築/始まりの建築』『新宗教と巨大建築』『戦争と建築』『過防備都市』『現代...

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