2018年12月01日号
次回12月17日更新予定

キュレーターズノート

「災害+クリエイティブ」のニューヨーク パーソンズ美術大学での実践

永田宏和(デザイン・クリエイティブセンター神戸[KIITO]/NPO法人プラス・アーツ)

2018年11月15日号

デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)では、「+(プラス)クリエイティブ」という言葉を掲げ、クリエイティブの力による社会課題解決に向けたさまざまな取り組みを行なっている。2013年にKIITOで開催した「EARTH MANUAL PROJECT展」★1は、自然災害に多く見舞われる日本を含む東南アジアを中心とした地域から「+クリエイティブ」な視点を持つ防災活動を集め、クリエイターたちの想いや活動のプロセス、成果や課題を紹介する国際展覧会である。
現在、同展はニューヨークのパーソンズ美術大学(Parsons School of Design)において、「EARTH MANUAL PROJECT-This Could Save Your Life」として開催されている(2018年12月12日まで)。
本稿では、筆者が理事長を務めるNPO法人プラス・アーツと副センター長を務めるデザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)の両団体が同展開催に向けて、国際交流基金アジアセンターおよびアメリカ国内のみならず世界でも屈指のアート・デザイン系の教育機関であるパーソンズ美術大学と2年以上にわたって共同で取り組んだ複合的なプロジェクトを中心に、ニューヨークでの展覧会開催に至る経緯、展示会場構成についての考え方、そして「災害+クリエイティブ」という考え方の普及活動について紹介する。


パーソンズ美術大学シーラ・C・ジョンソン・デザイン・センター ©Ayumi Sakamoto

「10+1」で巡回展開催地の活動を生み出す

まず、メインのプロジェクトとして実施したのが、2013年にKIITOで開催した「災害+クリエイティブ」をテーマとした展覧会「EARTH MANUAL PROJECT展(以降、EMP展と表記)」のパーソンズ美術大学のギャラリーでの巡回展である。この展覧会は、自然災害の多い、日本をはじめインドネシア、タイ、フィリピンの東南アジア4か国で、各国のさまざまなジャンルのクリエイターたちが大規模な過去の自然災害に対して起こした示唆に富んだクリエイティブな支援活動を紹介する展覧会である。KIITOでの展覧会では、阪神・淡路大震災と東日本大震災の被災地である神戸と東北から計14の活動を取り上げ、さらに、前述の海外3か国での9つの活動を加え、合計23の活動を紹介したが、その後のフィリピン、タイでの巡回展の際には、それぞれの地域に合わせ10の活動をセレクトし、展覧会を実施した。

この海外での巡回展の際に新たに生まれたのが「10+1」という企画で、EMP展オリジナルの10の活動紹介に加え、フィリピンやタイなど巡回展の開催地で新しい展示コンテンツを現地の人たちと協働でつくり、加えるというスタイルを採用している。具体的には、巡回展の開催地で、デザインや建築、アートなどの分野の大学生や若手のクリエイターたちを集め、その国や地域で過去にあった代表的な災害種をテーマにリサーチとワークショップを行ない、最終的にクリエイティブなアクションプランを企画、そのモデルを展示するというプログラムである。この展覧会の企画プログラムは今回レポートするパーソンズ美術大学での巡回展の際にも採用され、大きな成果を生み出した。これに関しては後ほど詳しく紹介する。


左:タイ、チェンマイでのワークショップ 右:チェンマイでの展示風景★2

ニューヨークでの巡回展のきっかけとなったのは、研修旅行中だったパーソンズ美術大学の講師陣がタイのチェンマイでの巡回展を偶然鑑賞したことである。彼らが本展覧会の主催者(スポンサー)である国際交流基金に巡回展のオファーをし、企画がスタートした。

「見立て」による会場構成

パーソンズ美術大学での展示物のセレクトや展示空間の構成、設計、施工に関しては、基本的に同大学のギャラリー専属のテクニカルスタッフの手に委ねることになったが、それぞれ日本のスタッフとのコラボレーションが生かされている。展示物のセレクトや監修は筆者が、展示空間の構成はKIITO及びフィリピンの巡回展の展示空間設計を担当した建築設計事務所「みかんぐみ」の曽我部昌史氏が、ロゴマークや展示パネルのデザインは本展のブランディングなどグラフィックデザイン全般を担当したデザイン事務所「文平銀座」の寄藤文平氏がそれぞれサポートし、実現に協力した。

曽我部氏、寄藤氏の二人には、それぞれニューヨークでのギャラリースタッフとの企画ミーティングやオープニングセレモニーに参加していただくとともに、その機会に合わせて学生に向けた講演会を実施し、日本の「+クリエイティブ」の世界観を伝える活動にも参画いただいた。特に曽我部氏にはギャラリースタッフと行なった展示空間に関する企画ミーティングの場で、EMP展の展示空間設計において採用された基本的な考え方である「見立て(=災害時には身の回りにあるものをうまく活用して現場のさまざまなトラブルを解消しなければならないという、臨機応援な対処法のこと)」を詳しく解説していただいた。実際にこの「見立て」の考え方から、展示什器として、神戸の展覧会では物流の業界で使用されている木製の「パレット」が、フィリピンの巡回展の際には被災地でさまざまな用途で使用される「シート」が採用されている。このミーティングを受けて、ギャラリーのテクニカルスタッフたちは「見立て」の考え方を導入し、ニューヨーク(アメリカ)に合った展示什器を検討し、アメリカで洪水対策として家屋に使用される「ライザー(Risers)」と呼ばれる木組みに着想を得た什器を考案した。展示されている作品に関してはもちろん、展示空間設計においても、日本流の謙虚な態度で相手に寄り添うサポートを行なった事例として紹介しておきたい。



木製パレットを利用したKIITOでの展示


左:被災地で使用されるシートを利用したフィリピンの展示 右:洪水対策の構造体に着想を得たニューヨークでの什器
©Ayumi Sakamoto

パーソンズ美術大学での「災害+クリエイティブ」の実践

このEMP展の関連事業として実現したのが、巡回展に合わせて現地で新たに取り組まれた「10+1」の企画である。ニューヨークでの展示物としてパーソンズ美術大学の講師や学生たちが関わったハリケーン・サンディの被災地での活動「人形の家」が新たに加えられてはいた。しかし、筆者にとってのこの巡回展での本当の意味での「10+1」の企画は、本展の会期のスタートに合わせて17日間開催されていた同大学の環境構築学科の学生たちによる「災害+デザイン」をテーマにしたデザイン演習の優秀作品の展示であった。★3

このデザイン演習は、2017年にパーソンズ美術大学に初めて導入された授業で、EMP展の企画趣旨に賛同した環境構築学科の学科長ロバート・カークライド氏をはじめとする講師陣の協力によって実現した「災害+クリエイティブ」をテーマとする300名余りの学生たちが参加する大規模なデザイン演習である。テーマとして採用された災害種は、ニューヨークの地域性を鑑み、過去に発災した大災害のなかから「ハリケーン」「大停電」「テロ」の3つが選ばれ、それぞれ専門チームが独自に調査した詳細なリサーチ結果が学生たちに提供された。彼らはそれらを踏まえたうえで、集中講義で講師陣のアドバイスを受け、ワークショップを重ね、独自の作品を企画、デザインし、モデルやプランを制作した★4



2017年に実施された演習授業の様子

特筆すべきは、このデザイン演習に参加した学生たちのフィールドが実に多彩であったことだ。「プロダクトデザイン」「照明デザイン」の他、「ランドスケープデザイン」や「建築デザイン」「都市デザイン」に至るまで実にさまざまなジャンルのデザインを学ぶ学生たちが参加しており、提案のレベルも「モノ」レベルから「街」レベルまで多岐にわたり、そのバラエティに富んだダイナミックな内容にただただ驚かされた。日本の美術大学でも「災害+クリエイティブ」をテーマとしたここまでダイナミックな演習課題の実施は聞いたことがない。多様なデザインフィールドから「災害+クリエイティブ」のアイデアが生まれるその瞬間に立ち会えたことはとても貴重な経験であった。そして、このデザイン演習の実施プロセスに大きく貢献したのが、NHKワールドを通じて世界に配信され、好評を得ている『つくってまもろう』という、筆者が監修を担当した映像コンテンツである。この映像コンテンツは、いわば災害時のサバイバル技をコマ送りで解説するマニュアルビデオのようなもので、この映像を講師や学生たちに紹介したところ、大きな反響があり、彼らが感覚的に理解しづらかった「災害+クリエイティブ」の理念や本質をこの映像を通して伝えることができたと思う。

神戸から世界に広がる「災害+クリエイティブ」

こうして、私たちのニューヨーク パーソンズ美術大学での「災害+クリエイティブ」の普及活動は、EMP展の巡回展と「災害+クリエイティブ」をテーマとしたデザイン演習及び学生たちの作品展の開催というセットの形で実を結んだ。この2年余り、私たちが国際交流基金とともに現地で撒いた「災害+クリエイティブ」の新しい種が、ニューヨークの地で、パーソンズ美術大学のなかで、いかに根を張り、成長し、どんな果実を実らせてくれるのか。これから先は現地の人たちに委ねるしかなく、私たちはその成長を祈りつつ陰で温かく見守ることしかできないが、世界からクリエイティブを学ぶために集まった優秀な学生たちが将来母国に戻り、「災害+クリエイティブ」を実践する我々の同志として活躍してくれることを願いつつ本稿を締めくくりたい。



パーソンズ美術大学の学生展示の写真


左:展覧会オープニングで説明する筆者 ©Ayumi Sakamoto 右:会場風景


★1──2013年10月4日〜24日、KIITOホール、ギャラリーAで開催。http://www.earthmanual.org/
★2──http://www.tcdc.or.th/exhibition/21189/
★3──EMP展会場に隣接するアーノルド・アンド・シーラ・アロンソン・ギャラリーで「防災とクリエイティブ・デザイン(Disaster Preparedness in the Constructed Environment)」展(9月17日~10月3日)として開催。筆者も指導に加わった1週間の集中講義を経て作り上げられた優秀作品が展示された。https://www.newschool.edu/Parsons/all-exhibitions/?id=17179879086
★4──http://sce.Parsons.edu/blog/disasterprep_event/fall-2017-intensive

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創造性を紡ぐ拠点を目指して ──デザイン・クリエイティブセンター神戸|近藤健史:キュレーターズノート

Earth Manual Project – This Could Save Your Life - exhibition

会期:2018年9月27日(木)~12月12日(水)
会場:Anna-Maria and Stephen Kellen Gallery, Sheila C. Johnson Design Center, Parsons School of Design(2 West 13th Street New York, NY 10011, USA)
共催:国際交流基金アジアセンター、パーソンズ美術大学

  • 「災害+クリエイティブ」のニューヨーク パーソンズ美術大学での実践

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