2019年02月15日号
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キュレーターズノート

躍動する魂のきらめき──日本の表現主義

伊藤匡(福島県立美術館)

2009年06月01日号

 「表現主義」は美術の世界ではよく知られている言葉だが、頭に「日本の」が付くと、「日本の表現主義というのは、あったのだろうか?」という疑問が浮かぶ。ありそうでなかったくくり方で日本の近代美術を見直してみようというのが、この企画展だ。  図録の巻頭言によれば「本展では、日本における表現主義的動向を西欧の美術概念の需要や模倣としてではなく、日本固有の表現の発露として」とらえることをねらいとしている。


栃木県立美術館

 対象としている時代は主として1910〜20年代。ジャンルは絵画、版画、彫刻、写真、演劇、舞踏、映画、音楽、建築、工芸、意匠と幅が広い。作品総数は図録のリストでは500点を超える大規模なものである。ただし、会場ごとに展示作品が入れ替わり、同一会場でも途中展示替えがあるので、各会場で一度に見られるのは300点程度だろう。特定の作品を見たい場合は、展示されていることを確認してから出かけられることをお勧めする。
 全体は〈序章−予兆〉〈表現I−生命主義〉〈表現II−影響と呼応〉〈表現III−生活と造形〉〈エピローグ〉の5章立てで構成される。中心になるのは中間の三章で、なかでも〈表現II−影響と呼応〉が質、量とも充実している。とくに建築の分野では、1920年代に構想された建築の模型がこの展覧会のために再制作されていて、見所のひとつとなっている。
 なかには、最初に展示されていた黒田清輝のように、表現主義のテーマで展示するべきなのか、という疑問が湧く作品もないわけではないが、こうした企画では境界線上の作品もなるべく展示し、問題提起としようという考え方には同意できる。
 この展示会を通観すると、自己と自己の生きる時代にふさわしい表現を求めて苦闘した作家たちには、共通する傾向が確かに感じられる。それを「表現主義」と呼ぶべきかは、別の問題だが。
 経費的に無理な話ではあるが、理想をいえばこの展覧会は各章ごとに壁面の色を変えるなど雰囲気を変えてみたいところだ。栃木県立美術館での展示は、大きさも形状も展示の仕方も異なる大量の作品・資料を、単調にならず期待感を持続させるものだった。この美術館の企画展示室が、直線の壁面が少ない変形で、室内に段差あり柱ありという、展示室としては不思議な空間であることが、かえってプラスに働いたように思う。
 最近は展覧会の興行的傾向が強くなり、本展のように問題提起型の企画が少なくなった。とくに全国数会場を巡回する企画はまれといってもよい。作品・資料の長期間借用が難しいこともあるが、最大の理由は経費と収入の釣り合いがまったくとれないことにあるだろう。現に本展も、私が見学した土曜日の午後に、担当の木村理恵子学芸員の楽しく親しみやすいギャラリートークも行なわれたにもかかわらず、観覧者は10人程度だった。厳しい状況のなかで、3年前から研究会を立ち上げ展覧会の実現にこぎつけた関係者に敬意を表したい。


スロープの踊り場上に展示された神原泰作品


会場風景(柱の前に展示された堀進二《壺を抱く女》)


会場風景(森谷延雄作の家具)

躍動する魂のきらめき──日本の表現主義

会場:栃木県立美術館/Tel.028-621-3566
宇都宮市桜4-2-7
会期:2009年4月26日(日)〜6月15日(月)
巡回予定:
兵庫県立美術館(2009年6月23日〜8月16日)
名古屋市美術館(2009年8月25日〜10月12日)
岩手県立美術館(2009年10月20日〜11月29日)
松戸市立博物館(2009年12月8日〜2010年1月24日)

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