2017年10月15日号
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キュレーターズノート

第4回福岡アジア美術トリエンナーレ/美術館をひろげる・ふかめる

山口洋三(福岡市美術館)2009年11月15日号

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 福岡の秋には、大小さまざまな現代美術関連の企画展やイベントが集中する。その核となったのは「第4回福岡アジア美術トリエンナーレ(FT4)」(福岡アジア美術館、2009年9月5日〜11月23日)だ。本来ならば2008年に行なわれるべきだった本展は、アジア美術館開館10周年にあわせて1年延期され本年開催となった。


ジャン・リーロイ・ニュー《キメラ》、2009
撮影=今村馨

 アジア地域における新しい動向を紹介し続けてきたこれまでのFTでは、すでに国際的に知られた作家よりも、若くてまだ「手つかず」の作家を優先的に選考してきた傾向があったが、今回はツァイ・グオチャンやホアン・ヨンピン、マイケル・リンなど、アジア出身で、欧米などでも評価を高めている国際的な作家も数多く出品している。これは意図的に行なわれた作家選定で、新進の傾向というよりは、アジア美術館開館以降の10年間のアジア現代美術の動向を振り返る意図がそこにはあるし、こうした作家を無視しては、現在のアジア人作家たちの動向を説明できなくなってきたからである。福岡市におけるアジア美術の取り組みのなかには、現在の国際的な美術シーンにおける中国中心のアジアブームを先取りした試みがいくつかあった。第4回アジア美術展(福岡市美術館、1994年)しかり、中国前衛美術家展[非常口](三菱地所アルティアム/ミュージアム・シティ・プロジェクト、1991年)しかり。いいかえればそれはやや「早すぎた」。ツァイ・グオチャンもホアン・ヨンピンも、ナウィン・ラワンチャイクンも、マイケル・リンも、なんらかのかたちで1990年代に福岡にて紹介され、そしてその後国際的な評価を得ていった。
 ビル7階のアジア美術館のエレベータを降りてまず目に入るのが、ホアンの《2002年6月11日 ジョージ五世の悪夢》。巨大な象の上のイスに虎がしがみついている立体作品。続いて展示室に入れば、またもやホアンの《ニシキヘビの尾》がこちらを睨みつける。この導入のコーナーには、ナウィンやツァイ、そしてマイケルにスポード・グプタの作品が並ぶ。順路をさらに進めば、初めて海外の国際展に出品する若い作家に交じって、キムスージャやジュン・グエン=ハツシバといった、とくに「アジア」と断らなくてもすでに現代美術の文脈では名前が通っている作家の作品も見ることができ、展覧会場の要所を締める。意外なことに、こうした作家の主要作は近年福岡で見る機会がなかったのである。もっとも彼らの作品は、FTという枠ではなくて大規模な個展の形式でぜひ見たい作家だ。この約10年のあいだに急速に注目を集め、評価を高めた(特に中国の)作家による作品で、アジア美術のダイナミズムとエネルギーを福岡市民に伝えてきたかどうか? しかし海外の美術館や展覧会などですでに取り上げられる機会の多い作家を取り上げてもアジア美術館の、そしてFTの特色は出しにくい。それよりも、学芸員の地道な実地調査から得られた結果を、FTの作家選考にフィードバックさせてこそ、福岡ならではのものができるのでは? この両極のはざまで、アジア美術館は揺れてきたのだと思う。それは、福岡市美術館時代の「アジア美術展」初期に設定されたテーマ「伝統と現代(独自性と国際性)」の変奏でもあるだろう。
 図録にて黒田学芸課長が主張するように、「国際的」>「国内、ローカル」と作家を序列化して固定化することに私自身も反対したいが、それでもFT4において、ホアン、ツァイらの作品が圧倒的な存在感を放っているのは確かだ。それは、市場どころか状況すらないところから出発した作家と、条件的に有利な状況で成長した作家たちとの足腰の強さの違いだろうか。
 滞在作家による交流事業も活発に行なわれていて、そのなかでも人目を引いたのが、カンボジアの作家リアン・セコンによる「マカラ」のパレードだ。これは展覧会初日の9月5日に行なわれた。セコンはFT4開幕に先立ってアジア美術館に滞在し、廃品を利用して自国の伝統的な祭り「マカラ」を制作。そしてアジア美術館で募った約100人のボランティア参加者とともに、アジア美術館〜川端商店街〜キャナルシティ博多を往復した。ボランティア集め、行進の練習、関係する地域の方々との事前打ち合わせなどの膨大な事前調整作業が想起され、さらにそれをあわただしい初日に開催する御苦労には本当に恐れ入った。というのも、ちょうど私も、後述する「灯明ウォッチング in 福岡市美術館」の準備で苦労していたからなおさらそう感じ入った。テーマ性よりも、多様性や祝祭性が全面に出ている今回のFTにふさわしいオープニングイベントだった。


ホァン・ヨンピン《ニシキヘビの尾》、2000、ガイ&ミリアム・ユレンズ財団(スイス)所蔵
その背後にツァイ・グオチャンの作品も見える
撮影=今村馨


9月5日のオープニング・イベントで行なわれたリアン・セコンによる「マカラ」のパレード
撮影=黒田雷児

第4回福岡アジア美術トリエンナーレ(FT4)

会場:福岡アジア美術館全館、周辺地域
会期:2009年9月5日(土)〜11月23日(月・祝)

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山口洋三

1969年生まれ。 福岡市美術館 学芸員。「福岡現代美術クロニクル1970-2000」(2013、福岡県立美術館との共同企画)、 「菊畑茂久...

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