キュレーターズノート
ネットワークをカタチに──秋冬・青森のアートシーン:「ラブラブショー」&「文化芸術による創造のまちあおもりプロジェクト」
日沼禎子(国際芸術センター青森)
2010年01月15日号
2008年4月に開館した十和田市現代美術館は、2009年9月までに常設および企画展の累計入場者数が30万人を突破したそうだ。空き地が目立つ官公庁街の全体を美術館に見立てることで魅力的な景観を作り出し、新たなにぎわいを創出させる手法が見事に人々の心をとらえたのだろう。美術館のスタッフの談によると、なによりも「敷居の低さ」がこの美術館の大きな特徴だというが、もちろん表面上には見えてこないさまざまな尽力の賜物であるし、ここ数年来、青森県立美術館、国際芸術センター青森(青森公立大学)をはじめとする新しい公共の文化施設の設立や、アートNPOなどの活動との相乗効果もある。特に今年の12月の東北新幹線新青森駅開業へ向けた周知活動に公民一体となって熱を入れていることもあり、「青森といえば〈りんご〉と〈ねぶた祭り〉」にプラスして〈アート〉という新しい産業の可能性をも期待させる。
「ラブラブショー」
さてそうした期待が高まるなか、〈ケンビ(青森県立美術館)〉と〈ゲンビ(十和田市現代美術館)〉との連携による展覧会「ラブラブショー」が開催中である。テーマは「出会い」。美術のみならず、建築や音楽など多彩なジャンルで活躍する2名(組)のアーティストのコラボレーションによるインスタレーションで構成された展覧会。それぞれの空間、アーティスト、観客とのさまざまな「出会い」を通して、新しい表現の可能性と価値の発見を目的としている。また、期間中は2館を繋ぐシャトルバスも運行し、青森からの乗客には「りんご」の花、十和田からは「つつじ」の花のステッカーを配り、2館の交流の証として互いの館に貼り付けるという参加者体験型の企画も盛り込まれた。
双方の美術館ともに個性的な建築物としても来場者を楽しませているが、青木淳設計による〈ケンビ〉は、三内丸山遺跡の遺構を思わせる地下階の展示室が印象深い。エレベータを下り、薄暗がりのチケットブースから突然に目に飛び込んでくる第1室の真っ白なホワイトキューブのギャラリーには、鈴木理策による桜をモチーフにした写真と、遠山裕崇のりんごの花をモチーフにした絵画作品が展示され、まばゆい光の空間のなかに、絵画的写真と写真的絵画が出会いを見せている。その瞬間に、ついさきほどまでいた屋外空間の、白い雪のなかに白い建造物が佇む風景までにも意識が及ぶ。長く厳しい冬を越え、桜もりんごも一斉に花開く春を待ち望む私たちにとって、一足早いギフトを贈られた気持ちになる。平面、立体作品に多元的な新たな視覚世界を生み出す立石大河亞と、光を素材に視覚の秘密を読み解く松村泰三のコラボレーション《観光〜光を観る》では、「陶」と「光」の彫刻がそれぞれ展示台に載せられ、規則的に並列されるというオーソドックスな展示方法に統一されることで、かえって各々の特異性が際立ちを見せていた。また、会場内で小気味良い演出を見せていたのが、松原慈と有山宙による建築ユニットassistantによる展示アーティストの資料室である。三内丸山遺跡の方向へ開かれた大きなガラスに面してしつらえられた雪見部屋が出現。靴を脱いでリラックスしながら、各アーティストたちのカタログなどの資料を閲覧できる。そのほか、さまざまなアーティストのコラボレーションが、それぞれの空間を活かしながら展開。期間中、「ラブラブ・ミュージアム・ナイト」と題したクリスマス&バレンタインデー企画が開催され、貸し切りの展示室で作品を見た後のカフェでのディナー、ジャズの生演奏やプレゼント抽選会なども盛り込まれた。作品鑑賞にプラスして、さまざまな美術館の楽しみ方を提供する意欲的な展覧会となっている。