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永井裕明展 GRAPHIC JAM ZUKO in Kyoto

小吹隆文2015年03月01日号

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 広告物などのグラフィック・デザインや、企業のブランディング、キャンペーン、展覧会活動など幅広く活躍している永井裕明が、昨年の東京・ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)に続き、京都dddギャラリーで大規模な個展を開催している。



[すべて筆者撮影]


 永井の仕事で真っ先に思い浮かぶのは、1997年以来継続している「佐川急便」との関係である。ゴルフ用品の「PRGR」、横浜ゴムのタイヤ&ホイール・ブランド「ADVAN」も印象深い。また、川村記念美術館の「ピカソ展」や、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館の「ヤン・ファーブル展」など、美術展関連でも優れた仕事を残している。こうした幅広い仕事に共通しているのは、実直かつ骨太であること、スタイリッシュであること、凝縮感があること、控えめなユーモアを好むことであり、大人の男らしい仕事人というのが、筆者の永井に対するイメージである。


作家による作品解説が、読みやすい斜めのキャプション・プレートで表示されている


 さて、肝心の展覧会に移ろう。本展は大きく分けて3つのコーナーに分類されている。まず、本展のタイトルになっている「図交」の作品群。これはクライアントから発注を受けた仕事ではなく、本展のために自主的に創作した連作のシリーズである。次に、永井の代表的な仕事を伝えるポスター作品、そして書籍や美術展のチケットなどである。2つ目と3つ目はリンクしている場合も多いので、非商業系と商業系の2系統と言い直してもよいだろう。なぜ、このような形式にしたのか、本人いわく「せっかく展覧会を行なうのだから、過去の作品ばかり出しても面白くない。自分はまだ現役だから、新作を出そうと思った」。
 その新作である「図交」だが、まずは「図工」ではない点に注目する必要がある。永井は「子どものころから図画工作が大好きで、好きなことを仕事にできた」幸福感と、「恩返しのつもり」で本作を構想したのだという。ただ、大人になって我が強くなり、情報に惑わされることも増えたので、「図画工作」ではなく「図我交錯」なのだ。
 作品は、文字の「図」(ロシア構成主義やバウハウスを連想させるフォルム)をテーマにしたデザインで、永井が思いついたモチーフを信頼するカメラマンやデザイナーに提示し、ジャムセッションのような打ち合わせを通して具現化している。モチーフは、ベーゴマ、フィルム、建築模型、鉄文字、西陣織、レゴブロックなど14種類。ジャムセッションの相手は、坂田栄一郎、市川勝弘、藤井保、操上和美、高田唯などそうそうたる面々だ。
 「ベーゴマ」は下町生まれの永井にとって思い入れのあるモチーフである。本作のために鋳造所まで赴き、「図」を刻んだオリジナルのベーゴマを発注した。たくさんのベーゴマがつながった房の状態を藤岡直樹が、2つのベーゴマが弾き合って勝負している姿を坂田栄一郎が、それぞれ写真に収めている。「鉄文字」は鉄板を溶接して「図」を造形化したもので、砂に半ば埋もれて錆びている様子を長沢慎一郎が撮影した。ちなみに永井は「錆び」に愛着を感じており、《パウル・クレー展 ポスター》(2006)で錆びた針金を使用した時にその事実に気づいたという。ほかにも、「フィルム」(撮影:市川勝弘)では大判フィルムの枠部分やフィルム缶に興味があることを告白し、「建築模型」(撮影:藤井保)では建築よりも等高線の表現が好きなことに後で気づいている。つまり、「図交」は上質なコラボレーションであると同時に、彼のフェティシズムが前面に出た作品とも言えるのだ。ちなみに作品は、壁面にポスター、その前のアクリルケースにモチーフという形で展示された。



 もうひとつの主役であるポスターは、まさに百花繚乱のごとくである。通常のポスター制作では考えられないほど高価で手間のかかる印刷を行なった《サントリーCAMPARI ポスター》(2000)、綿密な取材による紀行文的アプローチにより書籍にまで発展した《紀ノ国屋本左衛門 ポスター》(2000)、作品ではなく名前を前面に打ち出した《ピカソ展 ポスター》(2004)、フロッキー印刷を採用した《オシャベリ@美術館 ポスター》(2002)など、アイデアに富んだ作品が並んでいる。展覧会のためにエンボス印刷のみで制作した《Blanc blanc blanc A to Z》(2004)や、オフセット印刷の可能性を追求した《グラフィックトライアル ポスター》(2008)なども見応えのあるものだった。




 また書籍では、2011年の東日本大震災を挟んで制作した写真集『LOUIS VUITTON FOREST』とそこから発展した『LOUIS VUITTON FOREST BOX』(同書と坂本龍一の音楽、木材チップと香りをセットにしたもの。チャリティ目的で制作)や、護摩行を記録した全長約9メートルに及ぶ写真集『goma』など、凝った構成、レイアウトの仕事が印象深かった。
 そしてもうひとつ忘れてはならないのが、書籍と共に並んでいた「仕事ノート」である。永井はひとつの仕事ごとにノートを用意する。地味な灰色の大学ノートだ。そこには、仕事の目的や意図、打ち合わせや取材での発見、取材先で撮影した写真や自ら描いたイラスト、観光地のスタンプ、買い物をした際のレシートなど、さまざまな資料が収録されている。中には何冊も合本した大作もある。その綿密なメモを見ると彼のまじめな仕事ぶりがうかがえ、こうした地道な作業の積み重ねが質の高い仕事を支えているのだと、はっきりわかった。




 会期中のトークイベントで、永井は仕事に対するポリシーを挙げている。それは「グッとくるか?」「魅力を捜す」「コンセプトに合っているだけでは弱い」「恥をかく勇気」「原寸でやるべきだ」「横着をしない」「条件が厳しいと、新しいデザインができる」の7つである。また彼は「自分はアーティストではないから、クライアントが必要。クライアントがいない作品制作の時でも、疑似的にクライアントを想定する」「届けたいところにきちんと届いて(製品やサービスの)売り上げが上がる。それがデザイナーの仕事」「デザインのためのデザインはしない」「クライアントのパートナーとして存在し、ともに(商品を)育てる」といった言葉も残している。つくづく実直な人である。それでいて軽やかさも忘れていない。そこが永井裕明というデザイナーの魅力であろう。

永井裕明展 GRAPHIC JAM ZUKO in Kyoto

会期:2015年1月16日(金)〜3月31日(火)
会場:京都dddギャラリー
   京都市右京区太秦上刑部町10
   Tel. 075-871-1480

ギャラリートーク

日時:2015年3月6日(金)17:30〜19:00
出演:永井裕明+佐々木まなび+嘉戸浩

ギャラリーツアー

日時:2015年3月7日(土)16:00頃から
ナビゲーター:永井裕明

※共に入場無料

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小吹隆文

1964年生まれ。美術ライター。情報誌の編集部勤務を経て、2005年より関西を拠点にフリーランスで活動。主に雑誌、新聞、ウェブで原稿を執筆し...

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