アート・アーカイブ探求

阪本トクロウ《アフターイメージ》──ニュートラルで自由な余白「大野正勝」

影山幸一

2011年10月15日号


阪本トクロウ《アフターイメージ》2009, アクリル・雲肌麻紙, 1,620×970mm, 作家蔵
撮影:古屋敏之, Courtesy of the artist and GALLERY MoMo
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決意

 東京・GALLERY MoMo 両国で阪本トクロウの個展「交差点」(9月3日〜10月1日)を見てきた。阪本の作品は図録やインターネットの画像で目にしていたが、実物を見たのは今回が初めてだった。日本画出身の阪本の表現は、デリケートな手仕事が際立ち、ダイナミズムに欠けるかなと思っていた。しかし作品を前にした瞬間そんな思いは吹っ飛んだ。大きな画面の半分以上を占める大胆な余白、それとは対極の極細の線。この潔い画面構成が、阪本の作品にかける決意を伝えていた。鑑賞者をも風景の一部として包み込んでくる迫力があった。作品の真正面に立つと、無意識の記憶にスイッチが入り、思い出の風景がよみがえってくるのだ。
 今展には出展されていなかったが、阪本には道路をモチーフにした《アフターイメージ》(2009, 作家蔵)という作品がある。どこにでもありそうな郊外の道路を切り取った特徴のない絵柄なのだが、送電線と山と道の関係がとてもリアルに感じられる。オートバイでツーリングに行ったときよく目にした光景だ。東京と山梨を越えるあたりにあったような景色の作品で気に入っている。
 VOCA2008展で阪本トクロウを推薦していた岩手県立美術館の上席専門学芸員兼学芸普及課長を務める大野正勝氏(以下、大野氏)に、代表作のひとつである《アフターイメージ》の見方を伺ってみたいと思った。新人作家の阪本作品のどこに大野氏は可能性や魅力を見出したのだろう。秋晴の東京駅から東北新幹線で約2時間30分、震災前のダイヤに復活した「はやて」に乗り盛岡へ向かった。


大野正勝氏

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