アート・アーカイブ探求

小林古径《髪》──静寂と拮抗する品格「笹川修一」

影山幸一

2012年05月15日号


小林古径《髪》1931年, 絹本着色, 額一面, 170.0×108.2cm, 重要文化財, 永青文庫蔵
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日本画のヌード

 ゴールデンウィーク最終日、茨城・つくばではゴォーという轟音とともに竜巻の猛威に見舞われた。自然災害が日本列島に押し寄せている。自然が人間の傲慢な生活をいさめているのか、宇宙から見れば人間の営みはどのように見えるのだろうか。今年も日本の夏は暑いようだ。原発に頼らずとも日本人には知恵があるはずだと思えてくるのは、慎ましやかな日本の美意識に出会ったときである。
 絵画にヌードは珍しくないが、日本画のヌードは珍しい。その涼し気な《髪》(永青文庫蔵)に引き込まれた。しかし、切手の絵柄として子どもの頃見ていた《髪》は取り付く島がなくて、馴染めなかった。改めて見てみると長い髪の毛と乳房に、ぬくもりのある女性性を漂わせていながら、同時に温かみより機械的な冷たさをも感じさせる不思議な絵だ。日本画家・小林古径の代表作であり、近代日本画を代現する傑作。古径はなぜ、ヌードを描いたのか。髪を描く意味は何なのか。古径の作品とゆかりの品々を収蔵している故郷の新潟県上越市高田に建つ小林古径記念美術館の学芸員、笹川修一氏(以下、笹川氏)に話を伺いたいと思った。新潟・高田へ向かう。


笹川修一氏

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