アート・アーカイブ探求

丸田恭子《マイナスの質量》──空間が生動している「谷川 渥」

影山幸一

2012年06月15日号


丸田恭子《マイナスの質量》アクリル・エナメル・木炭・キャンバス, 198×398cm, 1995, 作家蔵
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絵の前に立つ

 神々しい巨大なリングの金環日食に続いて、小さな黒丸の金星が灼熱の太陽面を通過する世紀の天体ショーが5月下旬から6月上旬にあった。こうした自然の周期やエネルギーがもたらす迫力のある現象を身近に感じていたら、20年前に小さなギャラリーで見た大きな絵が蘇ってきた。暗闇の中で旋回しながらシルバーに輝く螺旋の絵、丸田恭子の《マイナスの質量》(作家蔵)である。1995年VOCA展に出展されたこの大作は、特に絵の前に立つことが求められる作品で、作品とともに空間を体感しなければ語ることができない。
 この丸田の作品を語ることのできる人はいるだろうか。初期の作品を見て書かれた数少ない文章のなかに「丸田の作品の独自性に強く惹きつけられながら、同時にある種の危惧の念のようなものを抱かざるを得なかった」とあった。この、雑誌『美術フォーラム21』に掲載していた美学者の谷川渥氏(以下、谷川氏)の一文にすんなりと同感した。“危惧の念のようなもの”の正体とはいったい何なのかを伺ってみたいと思った。
 谷川氏は、國學院大学文学部哲学科教授として美学芸術学および、美学美術史を教えている。美学者がとらえた丸田の《マイナスの質量》とはどのようなものか、5年前に新しい校舎に生まれ変わったばかりの國學院大学渋谷キャンパスへ向かった。


谷川 渥氏

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