アート・アーカイブ探求

狩野山雪《雪汀水禽図屏風》算賀に開く隠逸の自由──「奥平俊六」

影山幸一

2013年03月15日号



狩野山雪《雪汀水禽図屏風》(上:右隻・下:左隻)
17世紀前半, 紙本金地着色, 六曲一双, 各154.0×358.0cm, 重要文化財, 個人蔵
無許可転載・転用を禁止

圧倒的な寂寥感

 生活に用いる屏風の絵としては寂しさを誘う冬の海。妖しい月光のもと、無数の鳥が舞う夜景を執拗なまでに丁寧に描いている。幻想的で不穏な絵。一体何のために、どのように描かれたのか。シュールに近未来を予兆しているような、また現代美術としても成り立ちそうな江戸時代の作品。《雪汀水禽図屏風》(せっていすいきんずびょうぶ。以下、《雪汀水禽図》。個人蔵)である。作者は狩野山雪。ただごとではなさそうな絵と、ただものではなさそうな絵師である。
 「見る者の魂を繪畫の向こうの遠い地平へと誘い込むような壓倒的(あっとうてき)な寂寥感(せきりょうかん)はいつたい何に由來しているのであろうか」(『國華』第1101号)と、大阪大学大学院教授の奥平俊六氏(以下、奥平氏)にまったく同感だった。作品はすべて“形の生命”と“主題の生命”の相互的な関わりから読み解いていく、という奥平氏に《雪汀水禽図》の見方を伺いたいと思った。奥平氏は、1986年に奈良県の大和文華館で開催された『特別展 狩野山雪─仙境への誘い─』展にも関与している方だった。
 大阪大学の豊中キャンパスへ向かった。大阪モノレールの柴原駅で下車した。郊外で敷地が広い割には同じような建物が密集した感じで、目的地まで少々迷った。約束していた美学棟の研究室前へたどり着くと、扉が勢いよく開き目が合った。その人が初対面の奥平氏だった。私を迎えに来てくれたのだ。


奥平俊六氏

  • 狩野山雪《雪汀水禽図屏風》算賀に開く隠逸の自由──「奥平俊六」