2017年11月15日号
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デジタルアーカイブスタディ

つながる世界のコンテンツ──IIIFが描くアートアーカイブの未来

永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所主席研究員)2017年10月15日号

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 国際的にデジタルアーカイブの技術動向として注目されているIIIF (トリプルアイエフ、International Image Interoperability Framework)。画像をはじめとするWebコンテンツを縦横無尽に公開・共有するための枠組みであり、コンテンツを利用した創造と発見の基盤となることが期待されている。仏典のデジタルコンテンツを用いた仏教学、人文情報学の研究を行なう永崎研宣氏は、IIIFはデジタルアーカイブの未来に新たな価値と幅広い可能性をもたらすと言う。IIIFの普及活動に携わる永崎氏に、IIIFとは何か、IIIFの活用事例、課題や展望をご執筆いただいた。

はじめに──IIIFとは何か?

 世界各地のデジタルアーカイブで公開された高精細な画像を独自の視点から収集・編集し、注釈をつけて、独自のコンテンツとしてWebに公開する。そのようなことを誰もができるようにする規格が、いま、広まりつつある。IIIF(International Image Interoperability Framework、国際的な画像の相互運用の枠組み)と名づけられたこの規格は、2011年頃に始まるとともに、世界中の有力な文化機関に広まり始め、いまや、「フランス国立図書館」「ゲティミュージアム」「オックスフォード大学ボドリアン図書館」「ハーバード大学」をはじめとして、600を超える機関がこの規格に対応したコンテンツを公開し始めている。ここでは、このIIIFという規格と、それによってもたらされる大きな可能性の一部について紹介したい。

 IIIFのスローガンをまとめると「サイロからコンテンツを解き放つ」ということになるだろうか。世界中でさまざまなデジタルアーカイブが構築・公開され続けてきたが、それらのコンテンツは、いわば、サイロの中に閉じ込められた状態であり、そのようなサイロがひたすら世界中につくられ続けてきた。しかし、いちいちそれぞれのサイロを訪れなければ内容を見ることはできず、それらのサイロの中身を相互に連携させるといったことは大変困難である。その状況が続くと、サイロの中身はやがて誰にも見向きもされなくなり、意義を失ってしまうだろう。そのような危機感が、IIIFの始まりにはあったようだ。その状況を解消すべく、各デジタルアーカイブに搭載されたコンテンツを容易に外部から参照できるようにするための無料で使える規格と、その規格を実装するためのフリーソフトウェアの開発が世界の文化機関によって進められることとなった。
 当初は、複数機関で所蔵・公開される西洋中世写本のコレクション同士をうまく連携させることを目標として研究助成金を得たプロジェクト、というかたちで始まったようである。現在は、画像資料に関しては、公開用サーバソフトから対応ビューワに至るまで、汎用のフリーソフトがそれぞれいくつも開発・公開されており、さらに、時系列情報を含む音声や動画、そして3D画像を効果的に取り込むための規格のアップデートが進められている。IIIFは、Web技術のトレンドをうまく取り込みながらつくられた規格であり、Web関連の技術者にとっては取り組みやすいものであった。規格が持つ潜在的可能性だけでなく、その技術的な受容のしやすさも、ITエンジニアを直接雇用していることが多い欧米の文化機関への浸透が比較的速かった理由のひとつだろう。

IIIFがもたらす多様な世界

 「サイロからコンテンツを解き放つ」ことがもたらしうる具体的な事柄については、筆者の想像をはるかに超える多様な世界がそこから生まれることになるだろう、と述べておきたい。そのうえで、筆者が現在提示できること、期待することについて少しだけ触れてみたい。

 IIIFがもたらす「解放」は、デジタルアーカイブのなかに収められている「資料」「資料のページ」「資料のページの中の画像の一部」「動画のある時点」「ある時点の画像の一部」といったさまざまな要素が、サイトの外から共通の方法で直接取り出せることになる、ということである。ただしこれは、技術的に取り出せるということであって、権利制限の関係で取り出せるユーザを限定する機能もこの規格には含まれている。それゆえ、必ずしもコンテンツを完全にオープンにしなければならないというわけではない、という点には留意されたい。
 サイトの外から共通の方法で任意の要素を取り出せる、ということは、これまでのデジタルアーカイブの利活用とは根本的に異なるあり方を実現できることになる。例えば、各地のデジタルアーカイブで公開されている画像の気になる箇所だけを集めて独自の仮想コレクションとして公開することができる。もちろん、これまでも、各地の画像をそれぞれダウンロードして切り貼りすればそういうものをつくることはできた。しかし、IIIFに準拠して同じ仕組みをつくろうとする場合、各デジタルアーカイブで公開されているコンテンツにアクセスし、それを直接操作し、そのコンテンツの一部分に直接リンクを張ることができる。そのようにして作成した独自の仮想コレクションは、この直接リンクの集合として作成されることになる。そうすると、この独自仮想コレクションを閲覧するユーザは、独自仮想コレクションサイトを通じて、提供元のデジタルアーカイブの当該箇所にアクセスすることになる。そして、提供元デジタルアーカイブの当該箇所を含む資料全体にも容易にアクセスすることができる。提供元デジタルアーカイブから見ると、そのようにしてつくられた各地の多様な仮想コレクションから、自らのコンテンツの一部にアクセスが行なわれることになり、どのサイトから、どの箇所に、という記録が残っていくことになる。アクセス記録から活用状況を把握するうえでも、これまでとはかなり次元の異なる把握の仕方が可能となるだろう。

各地のデジタルアーカイブコンテンツを横断的に活用

 このようにして各地のIIIF対応コンテンツをさまざまに活用できるようにするフリーのソフトウェアを開発する取り組みは、すでに世界各地で進められている。あまりに動きが速いので、とてもすべてを追いかけることはできていないのだが、現在、日本の「人文学オープンデータ共同利用センター」とカナダの「トロント大学図書館」において開発・公開されているものについて、それぞれ少し紹介してみたい。

IIIF Curation Viewer /Curation API(人文学オープンデータ共同利用センター)

 前者は、ビューワ上で直接動作可能な軽量な仕組みとして、IIIF Curation Viewer に組み込まれており、Curation APIという規格の提案とともに取り組まれている。ユーザは、各地のIIIFコンテンツを利用して「キュレーションリスト」を作成できるようになっており、図1のように対象箇所を表示したり、図2のようにして、当該ページ内の対象箇所を順に見たりすることもできるようになっている。さらに、キュレーションリストを容易に共有・公開する機能も開発中とのことであり、実現すれば、仮想コレクションが各地に容易に分散し伝播していく状況になるだろう。今後の発展にも大いに期待したい。


図1 キュレーションリストのサムネイル画像表示
[『日本古典籍キュレーション』(CODH編集) 『日本古典籍データセット』(国文研所蔵)を利用
提供:人文学オープンデータ共同利用センター


図2 キュレーション対象の画像表示の例
[『日本古典籍キュレーション』(CODH編集) 『日本古典籍データセット』(国文研所蔵)を利用
提供:人文学オープンデータ共同利用センター

IIIF Toolkit with Mirador(トロント大学図書館)

 後者は、トロント大学図書館における研究プロジェクトDigital Tools for Manuscript Studyの成果物のひとつであり、フリーのメタデータCMSであるOmekaのプラグインとして開発・公開されている。Omekaは、図書館・博物館・文書館関係者や人文学研究者向けに開発されたコンテンツ・マネジメント・システムであり、北米では関連機関や大学の授業などでよく用いられているものである。米国議会図書館の典拠データベースとの連携や地図・年表上に簡単にコンテンツをマッピングする機能など、文化資料に関心のあるユーザにターゲットをあてたプラグインが豊富に用意されている。そのプラグインのひとつとして開発されているのがこの「IIIF Toolkit with Mirador」である。各地のIIIFコンテンツを資料単位でシステムに取り込み、IIIFコンテンツ上にアノテーションを付与したり(図3)、地図・年表等にIIIFコンテンツの任意の箇所をマッピングしたり(図4)できるようになっている。もちろん、ここに取り込んだ画像は、提供元が許容する範囲で自由に拡大縮小したりすることもできる。そういった機能を、CMSの認証機能を通じて分担しつつ共同利用でき、必要に応じて部分的に公開することもできるようになっているなど、かなり高機能なものとなっている。


図3 Omeka「IIIF Toolkit」上で「国立国会図書館デジタルコレクション」IIIFコンテンツへのアノテーション付与


図4 Omeka「IIIF Toolkit」で地図上にマッピングされた「国立国会図書館デジタルコレクション」IIIFコンテンツ

サイト単体でのIIIFの活用例

 一方、サイト単体で公開する際にも、アノテーション(注釈)を付与してそれを検索したり、画像を比較できるように並べて表示して拡大縮小したりしてみるなど、IIIFコンテンツはさまざまに活用できるようになっている。例えば、図5はアノテーションを付与した画像を複数並べてそれぞれに拡大縮小可能な状態で表示している「SAT大正蔵図像DB」の例である。ここでは、IIIF対応でコンテンツを作成公開したことで、IIIF対応ビューワの標準機能でこのような表示を実現することができており、独自にビューワを開発する必要がなく、開発コストを大幅に低減できたという点は特筆に値する。


図5 象に乗った仏尊を並べて表示し、付与されたアノテーションも表示する例
[出典:SAT大正蔵図像DB

 そして、これらのコンテンツもまた、アノテーションも含めて外部から自由に参照できる、つまり、取り出して扱うことができる。そのわかりやすい例として、神崎正英氏が開発している「Image Annotator」上で「SAT大正蔵図像DB」のコンテンツが表示されている図6を挙げておきたい。ここでは、提供元の画像が、別のサイトの別のIIIF対応ビューワで、画像が拡大縮小可能なかたちで表示されているだけでなく、画像に付与されたタグも同時に表示されている。


図6 神崎正英氏による「Image Annotator」に「SAT大正蔵図像DB」コンテンツを表示

おわりに

 ここまで、その可能性の片鱗を紹介してきたに過ぎないが、公開したコンテンツを外部から自由に参照できる世界は、デジタルアーカイブの利活用においてまったく異なる次元の展開をもたらしうる。商用サービスとしても「Zegami」等の魅力的なサービスが展開しつつある。さらに、文化資料コンテンツに限らず、博物館の標本資料や科学データ等、あらゆるコンテンツを、技術的にはフラットに扱うことができる。そのようにして、多様なコンテンツが縦横無尽につなげられ、さまざまな新しい文脈を生み出していくことになれば、デジタル時代のわれわれの知識流通基盤はより肥沃なものとなり、豊穣な文化を形成する基礎となっていくことだろう。

なお、IIIFに関する日本語の情報は、以下のURLに個人的に集積しているので参考になれば幸いである。
http://digitalnagasaki.hatenablog.com/iiif

参考サイト

・人文学オープンデータ共同利用センター(http://codh.rois.ac.jp
・Digital Tools for Manuscript Study(https://digitaltoolsmss.library.utoronto.ca
・omeka(http://omeka.org
・SAT大正蔵図像DB(https://dzkimgs.l.u-tokyo.ac.jp/SATi/images.php
・Image Annotator plus IIIF Viewer
https://www.kanzaki.com/works/2016/pub/image-annotator
・Zegami(https://demo.zegami.com/)

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永崎研宣

一般財団法人人文情報学研究所主席研究員。筑波大学大学院でインド仏教学とWeb技術を学んだ後、東京外大アジア・アフリカ言語文化研究所にてアジア...

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