アートプロジェクト探訪

「越後妻有アートトリエンナーレ 大地の芸術祭」と「越後妻有2009冬」

白坂由里2009年03月15日号

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 大地の芸術祭は、1996年に提唱された将来の市町村合併に向けた広域連携の地域づくり「ニューにいがた里創プラン」を機に、新潟県及び十日町地域6市 町村(十日町市、川西町、中里村、松代町、松之山町、津南町)の依頼で北川フラムがディレクターに選ばれ、過疎化が進む地域を現代美術によって活性化する 「越後妻有アートネックレス整備事業」の一環として始まった。約200の集落からなる越後妻有地域は、集落をひとつのまとまりとしてコミュニティを形成し ている。そのため、開始前から、北川ディレクターをはじめ、スタッフやボランティアで協働する「こへび隊」が地域の人々に話をして回った。何が起こるかわ からず静観または反対していた人々も少なからずいたが、第2回目には約50の集落が手を挙げた。芸術祭に参加するアーティストは、集落ごとに散らばり、設 置場所を決める。観客が回りやすいよう、松代の農舞台周辺に複数の作品をまとめ、他が広域に点在しているのはそのためだ。2005年に津南町以外の5市町村が合併してからも、作家は集落の集会所で作品をプレゼンテーションし、住民とともに作業を進めることも多い。手仕事や土 木作業などでも、地域の人々は頼りになる。制作を通じて作品への愛着が深まり、作家にとっても第二の拠点、故郷になっていくケースが増えている。

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集落の人々に作品プランを説明する

 芸術祭の第1回目には16万人、2回目には約20万人が国内外から訪れた。3年に1度の非日常的な夏祭りを終えると、まちは静かな日常へと戻る。 2003年の第2回目の開催後に、「3年に1度では寂しい」という地元からの声があり、2004年と2005年の夏には「越後妻有 夏10days」と題してイベントやワークショップが行なわれた。缶蹴りとかくれんぼを合わせたスポーツ缶蹴り「里山かくれんぼ」では、大人も子どもも神 社や大樹の陰に隠れて大いに楽しんだ。第1回目の芸術祭から参加し、廃校を「明後日新聞社」として、莇平(あざみひら)集落の住民との交流を重ねてきた日 比野克彦をはじめ、2004年の公募から選ばれ、2006年の第3回の芸術祭で峠集落の空家の表面を彫刻刀で彫り上げた《脱皮する家(とうふや)》の日本 大学芸術学部彫刻コース有志なども、このワークショップから参加している。その間、2004年10月に中越地震、さらにその年の冬に記録的な大雪となり、 出品作家やスタッフ、こへび隊なども「大地のお手伝い」として復興作業に積極的に加わった。2006年の第3回目の芸術祭では、第2回目の終了時から構想 されていた「空家プロジェクト」を展開。地震や大雪でさらに増えた空家を、田中文男棟梁の調査のもとにプロスペクターや中村祥二らが設計し、こへび隊や作 家、スタッフ総出で全身真っ黒になりながら片付け、作品を設置して美術館として展開した。2006年には約100の集落が参加し、30万人を動員。倉谷拓 朴の《名ヶ山(みょうかやま)写真館》、旧東川小学校を再生したボルタンスキー作品など、会期終了後も多くの作品が残り、芸術祭のない年にも、四季折々 に、地元の人々との交流をはかるイベントやパフォーマンス、ワークショップ、見学ツアーなどが行なわれるようになった。2008年には、大地の芸術祭の自 立支援、妻有ファンの拡大、地域活性化のための企画・コーディネートを柱とする「NPO法人越後妻有里山協働機構」が結成されている。

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日本大学芸術学部彫刻コース有志《脱皮する家(とうふや)》の制作中と再生後(2006年)

越後妻有の冬、雪とアートに親しむプロジェクト

 例年11月下旬に雪が降り始め、3月までの約半年間雪ととも に暮らす。2004〜2005年の冬には積雪4メートルの大雪を記録した。一方、豊かな思想や集落固有の文化を育んできたのも雪であり、「夏耕冬読」を テーマに、2008年の冬から雪を素材としたアートやワークショップが行なわれるようになる。「越後妻有2009冬」プログラムのなかで、十日町市で行な われる雪まつりに合わせた2月21日・22日、「越後妻有雪アートプロジェクト」 が行なわれた。今年は記録的な小雪。両日、東京からの1泊2日のバスツアーも出たが、筆者は残念ながら22日のみで別に取材した。パフォーマンス公演のほ か、木村崇人、大久保英治、新潟県在住の前山忠、堀川紀夫ら今夏の芸術祭参加作家を含む複数のアーティストによるプロジェクトを開催。農舞台では、たほり つこが《Kiss Snow 2009》プロジェクトを行なった。クレーン車で吊り下げられて、大地にキスした後に赤い実を刺し、雪台から見下ろすと人型になっているというもので、参 加者は自ずとはしゃいでいる。たほは今夏、東京藝術大学先端表現科や大学院の卒業生・修了生、他大学を交え、今年閉校になる小学校をアートセンター化して いく予定だ。また、豊福亮は作品の一部となる「メダルつくりワークショップ」を開催。筆者は見ることができなかったが、ミオンなかさとでは、 富永敏博が子どもたちとともに雪原を色で染める《かき氷マウンテン》をつくった。

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たほりつこ《Kiss Snow 2009》

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木村崇人《冬の渡り鳥》

富永敏博《かき氷マウンテン》
富永敏博《かき氷マウンテン》
 

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白坂由里

『ぴあ』編集部を経て、アートライター。『美術手帖』『マリソル』『SPUR』などに執筆。共著に『別冊太陽 ディック・ブルーナ』(平凡社、201...

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