“Dimensions Unseen_Rock_003, 2024” ⒸKenryou Gu, Courtesy of Yumiko Chiba Associates.
[提供:Yumiko Chiba Associates]
会期:2024/4/6~2024/5/18
会場:Yumiko Chiba Associates[東京都]
公式サイト:http://ycassociates.co.jp/exhibitions/2024/04/03/1978/
薄布にプリントしたような風景写真と、石の写真が2枚1組で並ぶ。薄布というのは、布に画像を転写したあとで糸を引き抜いていき、透け始めた布に朧げな像がとどまっているように見えるためだ。近づくと、ぼんやりしていた風景はノイズの群がりと化し、素地のコットンペーパーの質感のほうにおのずと意識が向く。
組み合わさった風景と石の写真は2組、7組、6組と同じ高さで壁に並ぶ。石は均一の構図で撮られ、ほとんど同じ2枚1組が15組あるように見える。工芸品の器が揃えられているような規則性が美しい。
顧剣亨のぼんやりした写真は、画像のピクセルデータを分解し、再編するデジタルウィービングと呼ばれる手法からなる。今作の《Dimensions Unseen》ではアイスランドにある石を基点に、そこから離れた土地に暮らす16人に石のある方向を撮影することを依頼し、彼らによる16枚の画像を顧がデジタルウィービングすることで生成している。そうして出現した霞がかった風景の横に、複数の方向から捉えた高解像度の石の写真がそれぞれ置かれ、2枚の下に座標の数字が記されている。
16人の束ねられた視界は曖昧な像となり、彼の手法を知らずに会場を訪れた人はその成り立ちへの関心を滞空させたまま、入口で示された世界地図に16本の線が交差していることや座標の数字から、くぐもった都市空間と対照的に写された石との関連性を推測する。
水平に並ぶ15組の写真は導線としても機能し、風景と石とを交互に眺めながら部屋の角を経て体をひねると、大きく印刷された写真が1組だけある。この構成を好ましく感じる。
ひとつの壁を占有する横幅2m弱の大きなプリントでは、小さなプリントにおいて朧げな風景を構成していたノイズが、ピクセル1粒1粒の角張った粒子を明らかにしている。ドット絵を印刷したような印象は、写真の大きさが変わること、鑑賞者が振り返ることをきっかけに、経年劣化した古布の肌触りをデジタル表現に変換させる。そしてピクセルの粒子は遠ざかりつつ眺めると、再び風景として像を結び出す。
プリントサイズにおける縮尺の差が展開された空間で、紙に印刷されたデジタルキューブは、私たちのまなざしやものごとの捉え方のレンジを回遊させる。その体験に、鑑賞者の目と印刷された写真との物理的な距離が干渉もする。
石をまなざす16人の視線は1枚の写真平面上で解体され、重ねられ、まなざしたという営みの霞みとして残る。ぼんやりとした視線の集積は、たしかにあるらしい石の像と拮抗して1組となり、それらはまた、15組の群れと大きな1組としても箱型のスペースにおいて対峙する。
《Dimensions Unseen》は対象をまなざすという写真が備える根源的な機能を、現代を生きる私たちの視覚情報の捕まえ方と、そのゆらぎの質を含んで提示する。高性能化するカメラが精巧な石の姿を捉えるのに対して、人々の視線は複数のデジタルデバイスを介してうろんな経路を辿り、遠くの石を見つめる。それらは不確かさを拠り所に宙空を漂い、数値化されないまなざしの気配を保持している。
鑑賞日:2024/04/17(水)