会期:2024/07/06~2024/09/16
会場:東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]
公式サイト:https://www.operacity.jp/ag/exh276/

本展は2020年に逝去したファッションデザイナー、髙田賢三の没後初の大規模個展である。ファッションブランドKENZOの名前は知っているが、自ら購入して愛用したことはなく、髙田賢三自身についてもよく知らない私であったが、それでも本展は十分に楽しめた。前半の展示はタイムラインに沿って髙田賢三の人生を順に追っていく構成となっており、とてもわかりやすく情報が頭に入ってきた。幼い頃に姉たちが愛読していたファッション誌を夢中で読んだことや、姉たちが通っていた洋裁学校に強い関心を抱いたことなどがまず紹介される。彼の原体験はここにあったようだ。しかし戦後日本で、洋裁学校はまだ女性だけが通う場だった。やがて文化服装学院が男性にも門戸を開くと、1958年、彼はその第1期生として入学し、ファッションデザイナーへの道を歩んでいった。

展示風景 東京オペラシティ アートギャラリー[撮影:髙橋健治]

展示風景 東京オペラシティ アートギャラリー[撮影:髙橋健治]

欧米諸国に比べると、日本での洋服の歴史は断然短い。明治から昭和初期まで洋服といえば制服や軍服、学生服が中心で、一部の上流階級を除いて、庶民の普段着はほぼ和服だったからだ。庶民が洋服を普段着にし始めるのは戦後からであるため、現在においても80年弱の歴史しかない。髙田賢三が自身のブランドを立ち上げた1970年時点では、わずか25年である。その浅い歴史しかない境遇のなかで、単身渡仏し、世界の大舞台でトップデザイナーとして人気を得たことを考えると、彼には相当なバイタリティーとセンスが備わっていたのだろうと想像する。

ただし不利は有利にも働く。当初、彼が洋服のデザインにヒントとして取り入れたのは、和服の生地やスタイルだった。絞りや縮み、紬など、欧米人からすれば珍しい生地を取り入れたほか、本来、春夏の素材である木綿を冬物に用いることで、彼は「木綿の詩人」と称され、話題をさらったのである。また直線裁ちを取り入れたゆったりとしたシルエットの袖や、もんぺのように膨らみを持たせたパンツの裾など独特のディテールが、古い保守的な価値観から脱却して自由を求める、パリの時代の空気にマッチした。日本という民俗性を武器にしたこの成功体験が、その後も彼をよりフォークロアな方向へと向かわせる。後半の展示では中国、ルーマニア、ロシア、アフリカなど世界各地の民族衣装に着想を得た作品が一堂に会し、それは圧巻だった。今でこそ世の中では多様性がしきりに叫ばれているが、すでに半世紀前にそれをファッションの世界で適えていた髙田賢三の先見の明に、改めて感服する。

展示風景 東京オペラシティ アートギャラリー[撮影:髙橋健治]

鑑賞日:2024/08/01(木)