会期:2024/07/28~2024/09/23
会場:練馬区立美術館[東京都]
公式サイト:https://www.neribun.or.jp/event/detail_m.cgi?id=202402101707551005
「からまりしろ」という造語といい、本展タイトルの「人間の波打ちぎわ」といい、平田晃久は非常に“文学的な”建築家である。こうした表現をあえて打ち出すことで、建築をスノッブに向けたものではなく、地域社会や住民に向け、より開けたものにしようという試みを感じる。彼が建築のコンセプトとして一貫して掲げるからまりしろとは、「絡まり」と「代」の2つの言葉から成る。「糊代」や「伸び代」などと同様に、絡まる部分という意味を込めている。それは建築物のなかではっきりと形作られた空間領域ではなく、「ふわふわとした隙間の錯綜」だという。言うなれば、人々がその建築物を長く利用するうちに自然発生的に生まれてくる部分であり、彼はそれが生まれるための装置を作ろうとしているのだ。おそらく図面上では表わしにくい部分であるにも関わらず、この独自の視点に立ち、彼はさまざまな仕掛けでからまりしろを生み出そうと努めてきた。
本展は、彼がこれまでに設計してきた個人住宅や公共施設のいくつもの模型や写真などを展示しながら、どのようにからまりしろに挑んできたのかを伝えている。観覧を進めるうちに、会場である練馬区立美術館も彼の設計によって建て替えが進んでいることを知った。後半ではそのプロジェクトや過程が紹介されており、練馬区在住の私としては竣工がいまから待ち遠しくなった。日本建築学会賞を受賞した「太田市美術館・図書館」といい、からまりしろは利用する人々の居心地の良さにも直結しているように感じる。最初からはっきりと形作られていない、建築物と人々との間で生み出される曖昧な部分であるからこそ、それは利用者のニーズに沿った隙間となっていくからだ。
Tree-ness House(2017)[© Vincent Hecht]
練馬区立美術館・貫井図書館 模型[© 平田晃久建築設計事務所]
太田市美術館・図書館(2017)[© Daici Ano]
そんなからまりしろの定義を自分のなかで噛み砕いていくうちに、ふと行き着いたのは、子どもの頃に経験したことがある人も多い秘密基地である。空き地に置かれた土管をはじめ、ちょっとした隙間を見つけて、子どもは自分なりの工夫を凝らしてよく基地化する。身体の小ささもあり、隙間が大好きであるからだ。あの頃の深層心理が、もしかすると大人になっても我々のなかに温存されているのかもしれない。
鑑賞日:2024/08/01(木)