会期:2024/06/29~2024/09/16
会場:パナソニック汐留美術館[東京都]
公式サイト:https://panasonic.co.jp/ew/museum/exhibition/24/240629/

デンマークを代表する家具デザイナー、ポール・ケアホルムの日本国内美術館では初めての展覧会と聞いて、やや意外な感じがした。確かに北欧という括りでは、何度かその作品が紹介される機会はあったのかもしれないが、日本ではまだそれほどケアホルムの名前は知られていないのだ。かくいう私もわずかな代表作しか知らなかったため、約50点の椅子やテーブルが一堂に介した展示空間に身を置いて、少なからず興奮した。これらの作品が台座の上に載っていたため、上から下までまさに舐めるように眺められたのである。本展に自らのコレクションを寄せた椅子研究家、織田憲嗣の音声による解説が所々で聞こえ、それに静かに耳を傾けると、一点一点への理解をさらに深めることができた。この粋な計らいのある会場構成を手掛けたのは、建築家の田根剛である。

ケアホルムがデザインした家具は、構造美という形容が実に相応しい。素材の特性を生かして、極限までに要素を削ぎ落としたミニマリズムを体現しているのである。ハンス・J・ウェグナーらを師とした木工家具製作のマイスターの資格を取得しつつ、さらにコペンハーゲン美術工芸学校でインダストリアルデザインを学び、金属などの工業材料にも関心を持ったことが、ミニマリズムを可能にした。木、革、ロープ、籐、スチール、ステンレス、石などを駆使し、異素材同士を組み合わせてミリ単位で計算したという厳格なデザインは、まさに寸分の隙もなく、ケアホルムは完璧主義者なのか、あるいは天才肌なのか、という気がしてくる。

展示風景 I. ORIGINS 木工と工業デザインの出会い[写真提供:パナソニック汐留美術館、撮影:Yukie Mikawa]

展示風景 II. DESIGNS: 1951-1980 家具の建築家[写真提供:パナソニック汐留美術館、撮影:Yukie Mikawa]

展示風景 III. EXPERIENCES 愛され続ける名作[写真提供:パナソニック汐留美術館、撮影:Yukie Mikawa]

最後の展示室は「名作椅子で味わうルオー・コレクション」として開放されており、出品作品の椅子に座りながら絵画を鑑賞する体験ができた。椅子の種類は複数あり、どれに座っても、すべてに順に座ってもいい。座り心地を確かめられるとともに、その計算し尽くされた構造やディテールに直に手に触れることもできた(あまりベタベタと触るのはよくないが)。椅子は暮らしのなかの彫刻であり、また小さな建築であることを実感できる、絶好の機会と言える。

展示風景 名作椅子で味わう ルオー・コレクション[写真提供:パナソニック汐留美術館、撮影:Yukie Mikawa]

鑑賞日:2024/08/02(金)