デザイン・写真:上西祐理

会期:2024/09/03~2024/10/23
会場:ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)[東京都]
公式サイト:https://www.dnpfcp.jp/gallery/ggg/jp/00000835

趣味は「旅と雪山登山」。自身のデザインスタジオの名前が「北極」。アートディレクター・グラフィックデザイナーの上西祐理のプロフィールを見て、目に付いた情報がこれだった。確かに彼女のインスタグラムを覗くと、荘厳な雪山の写真であふれている。よっぽどの雪山好きと思われるが、そう簡単に聞き流せる話ではない。ただの登山だって大変なのに、雪山登山だなんて、まず危険が伴うし、体力が必要であるし、経験やテクニックが問われる。そうした鍛錬を乗り越えてでも雪山に取り憑かれるのは、きっとほかでは味わえない達成感や冒険心が満たされるからであり、何より言語に絶するような素晴らしい景色が見られるからに違いない。常人が成し得ない体験は、間違いなく生きるうえでの武器となる。彼女の代表作である「世界卓球 2015」のポスターや、「Visualized Fencing. Yuki Ota Fencing Championships 2014」のポスターなどから受ける力強いビジュアルメッセージは、そんな背景の下に生まれたのだろうと推測する。

本展は、上西祐理の「現在地点を飾り立てることなく紹介する」ことを試みたものだ。1階では「Now Printing」と題し、彼女が撮影した日々の断片を中心に、写真とグラフィックを組み合わせた大小さまざまな印刷物が展示されている。雪山の荒々しい肌もあれば、光が降り注ぐ水紋もあり、また何かよく分からない複雑な形態のオブジェもあれば、チューブから捻り出したインクのような形跡もある。いずれも具象のようでいて抽象度が高く、漠然としたイメージしか伝わってこない。何というか、人間の頭では想像し得ない現象や宇宙が、世の中にはまだたくさんあることを突き付けられているような気持ちになる。言わば、それは彼女が雪山登山で遭遇する驚きや感動みたいなものなのだろう。

展示風景 ギンザ・グラフィック・ギャラリー[写真:藤塚光政]

展示風景 ギンザ・グラフィック・ギャラリー[写真:藤塚光政]

「Now Printing」とは、通常、印刷物のなかで写真素材などがまだそろっていないときに、言い訳として使用することもある言葉だ。それをあえてタイトルに据え、文字どおり、会場に設置されたプリンターから実際に出力する。運がよければ、その様を見ることができるかもしれない。また会期中に二度の展示替えを行なう予定だという。現在進行形のユニークな展示を通して、上西祐理の美意識に触れられる内容となっている。

展示風景 ギンザ・グラフィック・ギャラリー[写真:藤塚光政]

鑑賞日:2024/09/06(金)