artscape編集部の一員としてさまざまな企画を作っており、バタバタと動き回っています。リニューアル後にスタートして以来すでに軌道に乗ったと言えそうな連載もありつつ、準備中のものもまだあります。ここではある種の棚卸し作業として、筆者が担当している企画の紹介や構想を書いてみようと思います。じつは、この文章も出張先でタイプしているところです。

まず、伝説的なアートディレクター・石岡瑛子の展覧会に関連した連載を継続しています。本連載は、国内の五つのミュージアムで開催される「石岡瑛子 I デザイン」展の巡回地にゆかりのある人々に取材するという企画です。先月はその3本目にあたる記事「[PR]『石岡瑛子 I デザイン』展の巡回地を訪ねて──兵庫編:玉木新雌(tamaki niime)インタビュー」を公開することができました。兵庫県立美術館で9月28日より開催される石岡展に際して、兵庫県西脇市を拠点に活動するファッションデザイナーの玉木氏に取材した記事をお届けしました。

今回の出張は、それに続く4本目の記事の取材となります。京阪神で実務と教育の両面からご活躍なさっているグラフィックデザイナーのニコール・シュミット氏にお話をお伺いする予定です。少し話は逸れますが、取材準備で調べものをしていたところ、おもしろい事例に出くわしました。シュミット氏が企画で参加した「ヘルムート シュミット タイポグラフィ:トライ トライ トライ」展に関して、展覧会をウェブから追体験できる「3Dウォークスルー」が公開されていました。さながら展覧会のストリートビューであり、会期終了後の展示をこんなふうに観られるのはありがたいです。

連載について話を戻します。やや気が早いものの、兵庫での会期が終わったあとの本展は、島根と富山へ巡回します。それぞれの地域性が現われるような記事をこれからも作っていきたいと思います。

じつはartscapeの編集方針には、全国のミュージアム支援を行なうというものがあります。これは媒体の立ち上げ当初から続く方針でもあります。というのも、1995年の当時は、自前のウェブサイトをもっているミュージアムがそれほど多くなかったという背景があり、媒体として情報発信をサポートするのがミッションであったためです。それから約30年(!)が経った現在、ウェブでの情報発信がないミュージアムはまったくといっていいほどなくなったでしょう。ですが、全国のミュージアム支援という方針と相互作用する要素はいまだにいくつも見られます。地域アートの普及やローカルな価値の発見を経た2020年代、ポストパンデミックや気候危機のさなかで移動性自体が論究されたり、政治的にもグローバリゼーションの揺り戻しから反転するかたちで地域性が見直されたり……といったことがすぐにも浮かびます。

全国のミュージアム支援。それを学芸員の視点を借りて行なうような企画も、鋭意制作中です。各地のミュージアムに属する学芸員にお声がけして、座談会を実施することになりそうです。座談を取り仕切っていただくホストの役には、横浜美術館の南島興氏をお招きする予定です。南島氏は学芸員としての顔のほかにも、さまざまな面をお持ちです。「シリーズ:美術批評を読む」という連続レクチャーで往年の批評家を再訪する企画に名を連ねています。ほかにも、社会的な問題意識から美術シーンをウォッチする活動として、「みなみしまの芸術時評」というイベントも主催なさっています。ミュージアムの外でもアクティブに活動なさる氏を中心に、地域を越えた若手学芸員のつながりや各地のケーススタディが見えてくる企画を、artscapeサイト上で展開していきたいと考えています。(o)

出張先の兵庫県立美術館にて[撮影:artscape編集部]