会期:2024/08/24~2024/09/16
会場:ギャラリーオオアナ[三重県]
公式サイト:https://www.instagram.com/gallery_oana/

三重県・津市にある三重県立大学の裏路地と住宅地の境目に位置するギャラリーオオアナは、県立大の建築学科の学生を中心に有志で運営されるギャラリースペース、共同アトリエである。制作アトリエとして使用される平屋住宅と、東西方向に走る倉庫をすかんとくり抜いた一坪ほどの小さな白い孔のようなホワイトキューブからなる変則的な空間であるがそこにある。

「ゾーン」展会場風景[筆者撮影]

京都市立芸術大学の美術科構想設計専攻に在籍するアーティスト・立花光による個展「ゾーン」では、制作アトリエとして使用されているこの空間内に存在するすべてのモノが動かないように固定されるインスタレーションが構成された。室内にあるスリッパや延長コード、卓上のペン、カップ、飲み終わったペットボトル、作業用の材木、カーテンレールに至るまで、ありとあらゆるモノが空間内にソフト接着剤やスプレー接着剤などを用いて仮設的に貼り付けられる。その空間自体は意味があるようでない“ただ固定された風景”として提示され、あたかも動的な時間の流れから1フレームを切り出されたような時間を漂流したという、そんなイメージへと組み替えられる。一見すると不可解なこの取り組みは、写真的な営為であると理解することもできそうだ。あるとき、あるところで事物を組織していたコードを、即物的かつ客観的な事実として捉え直す営みである。

「ゾーン」展会場風景[筆者撮影]

固定された仕掛けは作品となる室内のモノに直接触れることで発見され、この場所に「かつて、あった」時間と鑑賞者がいる時間とのあいだにスクリーンを一枚隔てた関係性を生む。とても明快な手法によって空間全体に異質性がもたらされることで、本展における少々の不気味さを帯びた体験は──ロラン・バルトの写真論に基づいて──プンクトゥムめいた反応(写真を見る私を突き刺すような感覚)を引き起こすかもしれない。そして、眼前の風景を成り立たせているモノたちに「触れてしまうことで、固定されたイメージを綻ばせてしまうのではないか」と錯覚させもする。

また建物の外にあるエントランスで配布されるタブロイド冊子にも、立花による会話の書き起こしが記され、作品の仕掛けや不気味さの設計にまつわる会話がほとんど生の声で綴られる。このテキストでもまた、空間のなかを複数の声がこだまするように行為の痕跡だけが残される。

実際の使用者と制作者、鑑賞者が文字通り展示の中で顔を合わせることなく、写真的な浮島のようにこの空間がただ漂流し続ける。ある種、感性的で主体的な好奇心によって築かれた展示という機会そのものを構造的に捉える試みでもあった。

鑑賞日:2024/09/16(月)

★──実際にはこのハンドアウトを読むことで固定された事実を発見することが可能な設計になっている。