会期:2024/10/01~2024/10/31
会場:e-flux film(オンライン上映)
公式サイト:https://www.e-flux.com/film/623562/joyride-tm/

アーティストのトニー・アウスラーと作家のコンスタンス・デジョングが1988年に製作した『Joyride (TM)』は、消費文化とアメリカの市場経済のスペクタクルを寓話的に描いた映像作品である。エネルギーと物質、人間の生活の複雑な絡み合いを描き、人類の「超越的なるもの」への憧れを社会構造のなかでシステム化してきた文化背景を浮き彫りにする。

この物語ではまず、企業によって運営されたテーマパークで行なわれるエネルギー総合展が舞台となる。夢の中のような近未来的な風景と人間が一体となって混在するセットが特徴的だ。テーマパークのジェットコースターに乗るかのように、人類がエネルギーを利用してきた歴史を辿る設定を通して、いかに我々がエネルギー効率の高い世界を実現してきたかが示される。

そんな歴史記述は生命活動の根源まで遡る。ビッグバン。地球の誕生。太陽から発せられるエネルギーの存在。次いで動物の飼育や蒸気機関の発明、電気の発見などの新しいエネルギー源によって人類が労働の代替を叶えた歴史的な発明が、今日どのような影響を与えているかが描き出される。

ドルをエネルギー、あなたを電流だと考えてください。 夢想家は一種の伝導媒体です。本展のメインイベントはそれを養うライフラインの安全性を担う変圧器です。(作中の台詞/筆者による試訳)

本作ではテーマパークでの土産物の購入が個人的な記憶と物質的な欲望が融合する象徴的な行為であり、体験を物質的に所有することは社会的アイデンティティの誇示を可能にする夢のような行為であると述べる。しかし同時に現実逃避の欲求を満たすための盲目的な超越性は、過剰な消費文化や環境汚染を引き起こし、大企業が利益を独占するシステムから逸脱できないことを指摘する。企業が発するプロパガンダのようなビジョンが労働者を快楽的に誘導することは、エネルギーと物質が永遠に形を変えながら融合し続ける現代的な錬金術としても捉えられるだろう。

現代社会におけるエネルギー、物質、人間の生活、記憶、経験。さまざまな要素が絡み合い、相互に影響を与え合うことで絶えず流動し続ける我々が「超越的なるもの」を追い求める在りようが問われている。一見御伽話のようにも見えるモノと環境が一体となった世界の描写は、現代社会を実現させるシステムによっては叶えられない人々の欲望を浮き彫りにする。

鑑賞日:2024/10/01(火)