会期:2025/01/11~2025/01/26
会場:資生堂ギャラリー[東京都]
公式サイト:https://www.shiseidocreative.com/beauty-beyond

「美を疑え」とは、なかなか挑戦的なテーマである。なぜなら、本展を主催したのは、2022年に資生堂から分社化した資生堂クリエイティブであるからだ。同社の前身は、資生堂社内で化粧品の広告やパッケージデザイン、ブランディングなどを担ってきたクリエイティブ本部である。元々、意匠部という名で創立され、百余年にわたって日本で「美」のあり方を模索してきた背景を持つ。いわば「美」を活動の根幹とする会社が、今一度それを疑い、ゼロベースから捉え直そうと試みたのである。

疑うからには、従来の「美」の概念を覆すことも厭わない。会場で発表されていたのは社員がチームごとに取り組んだ10作品で、総じて、今の時代の風潮を反映した多様性を重んじた内容となっていた。例えば、色覚多様性に着目したメイクアップの提案。実際に色覚マイノリティの女性と共創し、彼女が最も美しいと感じた色に基づいて、それを仮に再現した色の口紅やアイシャドウを資生堂の既存商品のなかから選んだという。鑑賞者は特殊なメガネ(バリアントール)をかけて、その世界を疑似体験することができた。また、ユネスコで消滅危機言語と認定されたアイヌ語に着目し、民族が培ってきた言葉の美しさを閉じ込めたジュエリーを試作。光を当てると、言葉の波形が浮かび上がる仕掛けとなっていた。一方で、震災などから避難した人々が日常を取り戻し、前向きな気持ちになるためのツールとして、化粧水、リップ、ケープの3点をセットにした製品を提案。化粧水とリップのパッケージや、ケープそのものを統一した和紙で製作し、軽さや強度、抗菌性、そして省資源をかなえた。ほかに、絶滅の危機にさらされた瀬戸内海の男木島の食文化に対して警鐘を鳴らす缶詰や、伊吹山にある資生堂の薬草園の未利用分の原料を使って薬草湯の製品を開発するなど、持続可能性にも意識を傾ける。いずれも同社社員が「美とは何か」を真剣に問い続けて生み出した作品だという。

「blooming WASHI」展示風景 資生堂ギャラリー

「MY COLOR MY BEAUTY」展示風景 資生堂ギャラリー

「わたしの言葉をください」展示風景 資生堂ギャラリー

つまるところ、何を美しいと感じるのかは十人十色である。美の概念は時代によって変わり続けるし、国や地域によっても異なる。十人十色とはいえ、人の感覚はそうした周りの環境に大きく影響される。その点で、現代人にとって個々の人格を尊重する多様性や、地球環境とのバランスを重視した持続可能性の考え方には共感しやすいし、それを美とする概念も広がっている。何十年か前には想像もしなかった事象を美しいと思えるようになった点で、人間の成熟度合いも増したのではないかという気がするのである。

鑑賞日:2025/01/26(日)