会期:2025/01/16~2025/03/23
会場:TOTOギャラリー・間 [東京都]
公式サイト:https://jp.toto.com/gallerma/ex250116/index.htm
「マンガアーキテクチャ」とは気になるタイトルである。文字どおり、建築家と漫画家とのコラボレーションを主体とした展覧会なのだが、経緯としては、建築家の吉村靖孝が「建築家の作家性とは何なのか」を問うあまり、作家性を消すことをあえて試みたというのである。そこで吉村がこれまで手掛けてきた7つのプロジェクト(建築作品)を題材に、異なる漫画家が7つのストーリーにして描き下ろすという実験がなされた。漫画の世界はとにかく自由だ。現実の人間社会をベースにしながらも、現実では起こり得ない状況に発展していくことも稀ではない。空想や誇張もあれば、人智を超えた能力もざらに登場するなど、非現実的な世界が描かれることは多い。つまり二次元の絵画表現でありながら、このうえなく拡張性の高い表現手法であるため、現実世界の建築がどう調理されるのかが見どころだといえる。
展示風景 TOTOギャラリー・間[© Nacása & Partners Inc.]
例えば、横浜・黄金町のビルの一室を改修したという《Red Light Yokohama》(神奈川県、2010)は、かつての赤いネオンサインが、緑の空間を通った後に、補色作用としてフラッシュバックするという仕掛けが施された建築作品である。これは漫画でもそのとおりの建築が登場するのだが、それに加えて、都市開発に至る背景や地元住民の葛藤、かつて働いていた外国人労働者の知られざる架空のドラマが描かれる。また《フクマスベース》(千葉県、2016)は、高さ8メートルの鉄骨造既成倉庫の内側に、木造の構造体を挿入した幼稚園附属の子育て支援施設で、子どものための多様な居場所を生み出すことを狙いとした建築作品だ。これは漫画では、木造の構造体が空を雄大に舞い、いろいろなものを食べ尽くしてしまう意思を持った怪物として描かれる。この怪物をなんとか鎮静させなければならない。そこである空間に誘い出して収め、外に出られないようにする作戦を立てる。ユニークな二重構造の建築をこのようなフィクションに仕立てるとは、と感心した一例だった。
展示風景 TOTOギャラリー・間[© Nacása & Partners Inc.]
会場では最初のフロアで漫画とそのストーリーの一場面を再現した展示物を鑑賞し、次のフロアで建築の模型と図面を鑑賞するようになっていた。今、世間では漫画に登場する「漫画飯」を再現するチャレンジが密かに話題を集めているが、つまるところ、漫画と現実の世界を行ったり来たりすることは自然とわくわくするのである。我々の想像力を大いに刺激する漫画は、今後もどんな分野とのコラボレーションも楽しく叶えてくれそうだ。
展示風景 TOTOギャラリー・間[© Nacása & Partners Inc.]
鑑賞日:2025/02/01(土)