会期:2025/02/01~2025/02/28
会場:Collaborative Cataloging Japan (CCJ)(オンライン)[東京都]
公式サイト:https://www.collabjapan.org/events/2025/february-members
1960年代に国内で流行したアンダーグラウンド・シネマから、映像メディアの特性を実験的に操作する実験映画や、複数のスクリーンや身体を組み合わせた表現を行なう拡張映画など多様な表現が誕生した。これらは全共闘などの社会運動とも結びつき、表現の新規性を通して社会規範を転覆させるような表現も精力的になされた。
1970年代に入り、社会運動の沈静化や経済の変化とともにアングラ文化が収束するなか、8ミリフィルムの普及とともに個人での制作が可能となり、非商業的な独自の映像表現が模索された。そうした流れのなかで1970年代には「構造映画」というジャンルが登場した。この前衛的な映像表現のジャンルを、飯村隆彦らとともに確立した作家の一人である映像作家の居田伊佐雄による代表作『オランダ人の写真』が、「Collaborative Cataloging Japan (CCJ) 」にてこのたびオンライン上映された。これは、日本のアンダーグラウンドフィルムのアーカイブ団体である「アート サルーン」の作家監修によるデジタルアーカイブと劇場・研究機関での特集企画を経てのことである。
居田伊佐雄は1972年より個人映画の制作を開始し、デビュー作『Far from the explosive form of fruit』で松本俊夫に発掘されて以降、さまざまなフィルムを用いて映像表現を行なった。1991年の『大きな石小さな夜』を最後に作家活動を休止するが、個人映画シーンへの再評価が高まるなか、居田の作品も注目を集めている。
『オランダ人の写真』は、水辺を歩く自身の足元を撮影した数百枚のスチール写真を起点とし、それらの写真を机上に一枚ずつ配置・複写することで、緻密な構造映画として再構成している。複写風景をコマ撮りし、さらにフィルム編集を加えることで、もとの連続写真群とは異なるダイナミックで拡張された動きが生まれる。スチール写真を見つめるメタ的な視点と、それを複写する身体、反復する運動が多様な配置のもとで介在することで複雑な入れ子構造が形成されている。1976年に発表された16ミリフィルム版『オランダ人の写真』は、1974年に制作された8ミリフィルム版を基に再構築された作品である。入れ子構造をより複雑なものとするこの手法は、連続する風景としての映像の構造そのものを相対化し、撮影や編集など技術的な側面からフィルム映像への脱構築的な介入を試みている。
純粋に映像表現の拡張性を追求した居田の作品は、卓上での複写という構造を直接引用した伊藤高志の『SPACY』(1981)や、入れ子構造によって反復する映像の変容を描く松本俊夫『SHIFT』(1982)にも影響を与えたと言えるだろう。ひとつのシーンを映像表現のなかでのみ現われる連続体へと変貌させる本作の表現の新鮮さは、現在においても残りつづけている。
鑑賞日:2025/2/2(日)