現在、石岡瑛子の回顧展「Iデザイン」展が全国を巡回中です。その最後の巡回先となる富山県美術館にちなみ、今回は同館を取り巻く富山のクリエイティブシーンについて少し紹介してみたいと思います。弊サイトでは「Iデザイン」展の関連企画として、デザインディレクターの桐山登士樹氏へのインタビュー企画を予定しており、取材メモの一部をここで共有するかたちです。
富山県では、桐山登士樹氏を中心に、アートとデザインを活用した地域活性が積極的に進められています。商品開発支援、地域資源を活かしたブランドづくり、国際的な展示会の開催など、多彩なプロジェクトが官民連携のもとで展開されてきました。
桐山氏が手掛けた展覧会の図録や富山のデザインコンペティションなどに関する広報物
その中心的存在が、高岡市にある富山県総合デザインセンターです。ここでは、企業やクリエイター向けのデザイン相談、商品開発のサポート、人材育成、講演やワークショップの開催など、幅広い支援が提供されています。2017年には「クリエイティブ・デザイン・ハブ(C.D.HUB)」も設立され、全国から第一線の専門家を招いた学びと交流の場が設けられています。
センターが主催する「富山デザインコンペ(現・デザインウエーブ)」は、1994年に始まり、今や全国屈指の歴史を持つコンペティションへと成長しました。その最大の特徴は、応募作品が商品化を前提に評価されること。一次審査を通過した提案には地元企業とのマッチングやアドバイスが行なわれ、現実的な製品開発へとつながる仕組みが整っています。
このような地道な活動の積み重ねが、県内企業のプロダクト生産力を底上げしてきました。なかでも「富山プロダクツ」は、その成果を象徴する事例かもしれません。「富山プロダクツ」は、富山で生まれた優れた製品を県が認定し、全国・海外に発信する取り組みです。選定基準はデザイン性や機能性、品質など。選定企業にはプラスチック製品のリッチェル、鋳物メーカーの能作などが名を連ね、共通のロゴマークを通じて「富山ブランド」の確立を目指しています。展示会や広報支援もセットになっており、販路開拓にも寄与しています。
「Iデザイン」展の会場となる富山県美術館も、ローカルなクリエイティブシーンの流れのなかにあります。2017年に開館した同館は、「アートとデザインの融合」をテーマに据え、現代美術からグラフィックデザイン、建築模型まで多様な作品を収蔵しています。とりわけ注目されるのは、3年ごとに開催される「世界ポスタートリエンナーレトヤマ」。これは世界中から応募がある国際公募展で、日本国内では唯一の存在。グローバルなグラフィックデザイン界から注目も浴びており、富山が国際的なデザイン都市であることを印象づけています。
地域に根ざしたアートイベントも富山各地で展開されています。「越中アートフェスタ」は、県主催の公募展で、富山・高岡・新川・砺波といった複数会場を巡回する形式。幅広い世代やジャンルの作家が参加し、県内各地での鑑賞機会を創出しています。
現代アートの分野では、「ART/X/TOYAMA(富山国際現代美術展)」という有志による取り組みもあります。県内外から作家を招いて開催される本展は、質の高いキュレーションと展示で知られ、富山から国際的なアートシーンへとつながる橋渡しの役割を担っています。
さらに映像領域でも目立った成果があります。「富山映像大賞」は、2007年に始まった映像祭が前身で、2020年からは国際トリエンナーレとして開催。数百点の応募を集め、上映・展示・トークショーなどを組み合わせた複合的な芸術イベントとして展開されています。
以上がおおまかな事例の紹介ということになります。こうした富山のクリエイティブ振興を語るうえで、やはり桐山登士樹氏の存在は欠かせません。彼は富山県総合デザインセンターの創設時から携わり、現在は所長として活動。長年にわたり、企業との商品開発支援、若手人材の育成、コンペティションの運営などに尽力してきました。「幸のこわけ」のように、地域文化と現代的なデザインを結びつけるプロジェクトも多く手がけ、富山のブランディングに大きく貢献しています。
2020年代の富山県におけるアート・デザイン分野の現状を見ると、伝統工芸や建築といった従来からの分野にとどまらず、プロダクトデザインやグラフィックデザインの振興、地域と結びついたアートプロジェクトなど、多角的な取り組みが着実に進行しているようです。(o)