会期:2025/05/15~2025/05/25
会場:国立新美術館 3階展示室3B[東京都]
公式サイト:https://designmuseum.jp/topics/2025/05/01/128

実はテレビ番組「デザインミュージアムジャパン」はあまり観たことがないのだが、何度か展覧会を覗いてきて、この取り組みはとても興味深く思っていた。第一線で活躍するデザイナーや建築家などのクリエーターが、日本全国の各地へ出張し、“デザインの宝物”を探すという主旨であるのだが、その宝物のセレクトがなかなか面白いからだ。今回でいえば、ほうろう製品や魔法瓶のような生活用品もあれば、書体の「ヒラギノフォント」、屋根瓦の「石州瓦」、大漁旗、氷室の旧跡など工芸や歴史の分野もある一方、街路市やスナックといった領域まで網羅する。日本人の暮らしや社会に即したモノやコトを取り上げる姿勢に、共感が持てるのだ。おそらくクリエーター自身も初めて見たり、聞いたりする発見がありながら、独自の視点を通して丁寧にレポートしている点にも好感が持てる。いまやインターネットで何でも簡単に調べられて、その二次情報を見ただけで知った気になれてしまう世の中だからこそ、自らの足で出向いて、現場を見ることの重要性を切に感じる。

展示風景 国立新美術館

例えば「A-POC ABLE ISSEY MIYAKE」のデザイナーである宮前義之が訪ねたのは、高知市に立つ街路市。ここは江戸時代から300年以上続く、日本最大級の規模の市で、モノを介した人と人とのつながりに宮前は心を打つ。クールな世界のファッションデザインと、雑然とした賑わいを見せる街路市とではまるで接点がないように思えるが、コミュニケーションデザインという観点で彼はそれなりにヒントを得るのだ。

宮前義之 「街路市」市 300年続くコミュニケーションのデザイン 展示風景 国立新美術館

またグラフィックデザイナーの佐藤卓がリサーチしたのは、人口当たりのスナックの数が日本で最も多いといわれる、宮崎市の西橘通り。スナック独特の看板をグラフィックデザイナーの視点で考察するあたりは、一見の価値があった。一定の法則に従ってきれいに整えようとするデザインの作法とは、まったく違う感覚で作られた看板は、わけのわからない世界観でありながら、夜の街においては成り立っている。それを否定することなく受け止める佐藤の懐の深さに、思わず忍び笑いが漏れた。日本列島にはまだまだ発掘されるべき“デザインの宝物”がありそうである。


佐藤卓 「スナック」〈間〉をつなぐ本能のデザイン 展示風景 国立新美術館

鑑賞日:2025/05/15(木)