会期:2025/06/28~2025/11/03
会場:横浜美術館[神奈川県]
公式サイト:https://yokohama.art.museum/exhibition/202506_satomasahiko/
CMや教育番組、ゲーム、楽曲などさまざまな領域で活躍する表現者・教育者の佐藤雅彦の創造力は、まさに「作り方を作る」という言葉に集約されるのだろう。「作り方が新しければ、自ずとできたものは新しい」というのは、もっともだ。既定路線に沿ってばかりいては決して新しいものは生まれないし、人々にインパクトのある驚きや感動を与えることも難しいからだ。かといって独りよがりな表現になり、結果的に伝わらなければ意味がない。世の中の事象をいかに「分かるように伝えるか」を表現の目標としているという点において、彼は真の表現者・教育者であると痛感する。
本展は、佐藤の40年にわたる創作活動を概観する初の大規模個展である。彼が電通クリエイティブ局勤務時代に手がけた湖池屋「スコーン」「ポリンキー」、NEC「バザールでござーる」、サントリー「モルツ」など、1980~1990年代にかけてテレビに流れていた懐かしいCMを目にし、どれも自分が鮮明に覚えていることに驚いた。それほど当時から多大なインパクトがあったのだ。加えて佐藤流CMの作り方の映像を観て、なぜ、記憶に残っているのかという理由がよく分かった。曰く、CMは「音」が支配するというのだ。言われてみれば上記のどのCMも記憶の大部分は音で占められていて、簡単に口にすることができる。また「作り方が新しければ、自ずとできたものは新しい」のとおり、CM制作においてもひとつのパターンに陥らず、次々と新しいルールを生み出し、それらを「ドキュメンタリー・リップシンクロ」「新しい構造」などと名付け、独自に体系化していることにも感心した。
佐藤雅彦+ユーフラテス《ballet rotoscope》 [撮影:加藤健]
佐藤は電通退社後も、大ヒット曲「だんご3兄弟」の作詞・プロデュースや、NHK Eテレの幼児教育番組「ピタゴラスイッチ」の立ち上げなど、さらに大衆の心をつかむコンテンツを生み出していく。いずれも一度視聴したら忘れられない、心に何か小さな引っ掛かりを残すような特色がある。言わば癖があるのに、心地が良いといった類のもの。「作り方を作る」手法は、どのような分野の創作活動においても無敵のようだ。
「佐藤雅彦展 新しい×(作り方+分かり方)」展示風景 横浜美術館
鑑賞日:2025/06/30(月)