会期:2025/07/05~2025/08/24
会場:目黒区美術館[東京都]
公式サイト:https://mmat.jp/exhibition/archive/2025/20250705-454.html

かつて何度か、私は友人の子どもの出産祝いにネフ社のおもちゃを贈ったことがあった。いずれも喜んで受け取ってくれたが、その子どもがどのように遊んで成長していったのかについては残念ながら詳しく知らない。「世界で最も美しいおもちゃ」とよく称されるように、ネフ社のおもちゃはデザイン的にとても完成されている。本展を観ても、改めてそう感じた。会場内で創始者のクルト・ネフの言葉がいくつか紹介されていたのだが、その美しくなければいけない理由として、「子どもたちはおもちゃを通して、様々な世界を知っていくからです」とある。なるほど、目から鱗だ。ただし欧州人が使う「美しい」という言葉は、日本語のそれとは概念がまた異なるような気もする。日本人はおもちゃを美しいという形容詞で捉えることはあまりないように思うからだ。興味深かったのは、トイメーカーの責任として、「子どもたちにおもちゃを通して贅沢な消費生活を教えてゆくところまでいってもよいのでしょうか」と投げかけ、その例えとしてバービー人形を挙げている点だった。子どもの遊びや知育に対して、相当、強い意志と情熱を持って取り組んでいたことがわかる。

「○△□えほんのせかい+目黒区美術館トイコレクション 同時開催 クルト・ネフ生誕99年」展示風景 目黒区美術館

驚いたのは、ネフ社の海外輸出の約50%を日本が占めているという点だ。ただし日本の家庭にネフ社のおもちゃがどの程度浸透しているのかというと、私の経験からいえば、冒頭で述べた贈り先の友人たちはおしなべてあまりピンと来ていなかったというのが率直な感触である。むしろ同じ欧州でもレゴ社のブロックの方がずいぶん浸透しているだろう。では、いったい誰が、どこがネフ社のおもちゃを所有しているのかというと、これも個人的な感覚でしかないが、多くがデザイン事務所などではないか。オフィスにこれ見よがしにオブジェとして飾られているのをよく見かける。その理由は「美しい」からだ。日本では子どもに与えるおもちゃとしては、ネフ社のおもちゃは比較的高価という点も要因にある。もちろん何をもって高価とするかは、これも文化の違いによるのだが。

そういうわけで、クルト・ネフの崇高な思想と日本の市場とが合致しているのかについてはやや疑問は残るが、総体的に日本でネフ社のおもちゃが愛されていることは確かである。本展を眺めながら、私自身も欲しいと思うおもちゃがたくさんあった。

「◯△□えほんのせかい+目黒区美術館トイコレクション 同時開催 クルト・ネフ生誕99年」展示風景 目黒区美術館

鑑賞日:2025/07/05(土)