会期:2025/07/19~2025/09/28
会場:たましん美術館[東京都]
公式サイト:https://www.tamashinmuseum.org/post/tanktankuro

東京都・立川のたましん美術館で「生誕130年 阪本牙城 タンク・タンクロー展」が開催された。

タンク・タンクローは91年前、1934年1月号の『幼年倶楽部』で世に出たマンガのキャラクターである。タンクは戦車を意味する。形が似ていることから1910年代にイギリス軍が戦車を貯蔵水槽と呼んだ暗語が、1930年代には日本で子ども向けマンガに使われる通称にまで広まっていた。

貯蔵というイメージからか、タンクローは丸い体の中にさまざまな武器を隠し持っている。その武器を使って悪者と戦う。タンクの穴からプロペラを出して飛ぶこともできる。タンクローの豪傑さは初回の登場からすぐに子どもたちの心を掴み、出版社には「タンクローの体には何が入っているのか」を問う手紙が殺到するほど人気を博したという。

「元祖ロボット漫画」とも呼ばれ、丸い等身で体から解決道具が出てくるという点で「ドラえもん」を連想するが(頬には猫のようなヒゲまで生えている)、なんでもありの戦法に加えて、タンクローというキャラクターデザインの魅力がすごい。頭のてっぺんはちょんまげで、足元はブーツのようなゴム靴。右手に日本刀、左手にピストルという和洋折衷のなんでもありの勢いに満ちている。私はもういい大人であるが、マンガ表現の手前にあるキャラクターデザインを見るだけですっかり魅了されてしまった。


「阪本牙城 タンク・タンクロー展」会場風景[筆者撮影]

作者の坂本牙城(さかもとがじょう)は、北澤楽天や岡本一平が主催した東京漫画会に同会設立の1915年から関わり、小学校に勤務しながら風刺画などを描いてきた。タンクローの連載から3年を迎える1936年12月、日中戦争に向かってマンガの内容にも戦意高揚が求められるようになるなかで第一期のタンクローの連載を終えている。その後、SF活劇とは打って変わって、少年少女たちの日常生活の手本となるような『ジャンケンポンチャン』を小学生新聞に連載する。1939年に満州にわたってからは7年間、「文化指導」の名目で少年にマンガの描き方を教え、「義勇隊漫画部隊」を率いている。終戦の混乱時に世話をしていた子どもたちの多くを亡くし、帰国後は臨済宗のもと禅修行に勤しみながら水墨画家として活動した。

展覧会ではそうした彼の生涯を時系列に沿って紹介している。坂本による回想録とその作品群を照らし見ると、戦時にマンガ教育を行なうという稀有な立場であったことや、それゆえの教育者や表現者としての苦悩が窺える。マンガを読むことや、マンガを描いて自分の体験を発露することが子どもたちの活力となる一方で、彼らに死と隣り合わせの国威発揚を促す葛藤がつきまとっている。

1948年、帰国後の坂本は生活のためにふたたびタンクローの読み切りを描くが1年程度でやめてしまう。この第二期にあたるタンクローはちょんまげをシルクハットで隠し、日本刀がステッキに変わるなど、敗戦後の雰囲気を漂わせている。第一期のタンクローの顔に見られた化粧を施したような頬紅やヒゲ、瞳孔の開いたまなこといった特徴も薄れ、かつての荒唐無稽な闊達さは見られない。しかしながら宿敵・黒カブトのフォルムはさらに丸みを帯びて魅力を増し、彩色原画の配色の美しさなど、眼を見張る表現があちこちにある。ストーリーに応じてコマ割りのコマを変形させ、四角ではなく丸いフレームをたびたび用いるといった趣向も見られる。

ところで、子どもたちが熱中した最初期のタンクローは「漫謡漫画」の形式を取ったという。童謡とマンガを組み合わせた造語からなる「漫謡漫画」は坂本による発明で、七五調の文章と絵によって進行する。「タンク ソラ カラ ミオロセバ」「トアル オテラ ノ オホヤネ ニ」といったリズミカルな文章に、いくつかの挿絵を組み合わせている。連載当時、すでにコマ割りのあるマンガは普及していたが、紙芝居的な文字の読み上げとともにマンガの世界を感じ取るという体験型のマンガを創作したといえる。

坂本が残した言葉を引いてみる。彼は満州の大地について「大陸だと野っ原に座っていても、崖っぷちに立っていても、直接宇宙を感ずる」と述べ、水墨画の筆について「東洋のあの柔軟な筆、水そのものといってよい墨や、あの薄手の紙などが、人間の皮膚に直接つながっているような気がする」と記している。自らを軸に宇宙と皮膚という極地をめぐる視野を持った人物が、戦後はマンガの世界に戻らなかった。「義勇隊漫画部隊」での活動とともに、引き続き阪本牙城を追ってみたい。

鑑賞日:2025/09/11(木)

参考文献
たましん美術館編『生誕130年 阪本牙城 タンク・タンクロー展』(たましん美術館、2025)