
会期:2025/10/11~2026/01/25
会場:三菱一号館美術館 [東京都]
公式サイト:https://mimt.jp/ex/artdeco2025/
2025年は、通称アール・デコ博覧会(現代産業装飾芸術国際博覧会)開催から100年目に当たる年となる。アール・デコというと建築や工芸、グラフィックデザインなどに目が向いてばかりいたが、ファッションにも相当な影響が及んでいたことを改めて理解した。本展は服飾や関連資料に加え、絵画、版画、工芸品(宝飾品や化粧道具など)を約310点展示し、現代にも通じる100年前のモードをひもとく内容となっていた。西洋のファッションで何より革新的だったのはコルセットからの解放である。それに大きく貢献したのが、ポワレやランバン、シャネルといったメゾンだ。ウエストのくびれを強調しない、ストンとしたIラインやAラインのドレスは、今でこそ珍しくないスタイルではあるが、それはわずか100年前に生まれたものだったと思うと感慨深い。

シャネル《イヴニング・ドレス》(1928)
京都服飾文化研究財団[撮影:畠山崇 ]

マドレーヌ・ヴィオネ《イヴニング・ドレス》(1929年春夏)
京都服飾文化研究財団[撮影:畠山崇 ]

ポール・ポワレ《デイ・ドレス(テキスタイルデザイン:ラウル・デュフィ)》(C. 1922)
京都服飾文化研究財団[撮影:林雅之]
そして洋服の形が変われば、下着の種類も変わる。本展でアッと気付かされたのはその点だった。20世紀初頭、コルセットの代わりに登場したのが、ブラジャーやガードル、パンティ、ストッキング、シュミーズなどだった。これらも今でこそ当たり前の下着となっているが、たった100年の浅い歴史しかなかったのである(日本においてはもっと歴史が短いのだが)。注目したいのは、当時、ブラジャーは洋服の形に合わせて乳房が平らになるような形状だったということだ。美の観点が異なっていたのである。このように古い慣習から解放され、女性たちは自由に、活動的になっていったのだが、それでもまだパンツスタイルは日常着になっていなかった。せいぜいひざ下丈のドレスやスカートだったのである。
このようにファッションの観点からアール・デコを検証することは非常に新鮮で面白い。建築や工芸、グラフィックデザインなどの産業分野より、ファッションはもっと人々の生き方や暮らしに密着しており、いわば風俗史的な内容を帯びているからだ。いつの時代も革新によって、新しい様式や価値が作られていく。そこには人々の揺るぎなき熱意があり、後世はその恩恵を受けて当たり前のようにより良い暮らしを享受していく。では、現代における革新的な様式や価値は何かと問われれば何だろうか……。それは後世の人々が判断することになる。
鑑賞日:2025/11/29(土)