発行所:CAIRO APARTMENT
発行日:2025/09/01
公式サイト:https://cairo-apartment.com/pages/cabk/cabk005.html
出版社CAIRO APARTMENTより写真家・三好耕三のアンソロジー『A Long Interview with Kozo Miyoshi』が発刊された。本書は、三好の代表作とも言える「cacti」や「湯船」といったシリーズを回顧的にまとめるのではなく、イメージの連なりを通じてあらためて作家性そのものと対話する構成をとっている。異なる土地や時代に撮影された写真を横断的に配置することで、三好の写真に通底する視線のあり方そのものが浮かび上がる編集がなされている。
1947年生まれの三好は、日本大学芸術学部写真学科を卒業後、1991年に文化庁芸術家在外研修員としてアリゾナ州のCenter for Creative Photographyに滞在しアメリカ写真の調査研究を行なった。その後1996年まで滞在を続け、ロードサイドや砂漠地帯を巡りながら各地の風景を撮影し続けてきた。以降も地方を訪れる旅の過程で出会う被写体を、広大なフレームによって風景の記録と撮影者の経験をともに記述している点に、一貫した姿勢を見ることができる。
三好の銀塩写真は、中判や8✕10といった大判カメラ★によって得られる細部に至る描写力と、プリントにおける階調の制御から極めて豊かな諧調表現が特徴である。それは単なる技術的完成度の高さにとどまらず、風景に内在する質量や時間の厚みまでも可視化する。その点で三好のプリントは、ゾーンシステムに代表される古典的な写真技法への強い意識を持ちながらも、写真行為の一連のプロセスのなかで実践しているようにも思える。
三好の写真は、画面の構図やポージングが徹底されているにもかかわらず、旅先での経験に根ざした視線と写真の記録性とが微妙な緊張関係を保ちながら共存している。ある意味でスナップフォトやシークエンスに類する画面内の視点の移動が感じられる。
同時代のアメリカ写真において、大判カメラを用いながらも風景を美的対象としてではなく、匿名的で機能的な構造の集積として捉え直したニュー・トポグラフィクスの潮流とも、三好の視線は距離を取っていると言えるだろう。
作品《ROOT》の大根のイメージは、農作物というモチーフから離れ、物体の輪郭と質量だけを際立たせている。形態の単純化によってポール・ストランドを想起させるモダニズム的な造形意識すら忍ばせている。また、植物園の温室を写した《CONSERVATORY》でも内と外が曖昧な空間と観葉植物の即物性がフレーミングの妙により描かれている。
巻末を飾る尻屋崎の灯台の風景では、灯台の絵を手にする少年と一台の車が画面内に併置されることで、風景の遷移や記憶といった多数の層を組み上げている。本書が提示するのは、風景の記録ではなく、風景と向き合い続けるなかで古典的な写真技法と個人の経験とを更新し続けてきた写真家の実践の軌跡である。旅という主題は一種の方法論にもなっており、どこにも帰着しない移動のなかで、風景を風景のままにとどめるための距離感を保ち続けることを可能にする。本書はその距離の測り方そのものをイメージの連なりから批評的に再構築している。
鑑賞日:2025/12/10(水)
★──三好は近年、独自の16✕20インチのカメラで撮影を行なっている。