
会期:2025/12/09~2026/01/31
会場:ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)[東京都]
公式サイト:https://www.dnpfcp.jp/gallery/ggg/jp/00000850
この人の頭のなかはいったいどうなっているのだろう、と思う。グラフィックデザイナーの中村至男の作品は、一見、単純なようで奥が深い。太いアウトラインと明快な配色を用いたシンプルな絵は、非常にわかりやすい一方、そのフックのある内容におや? と数秒後に立ち止まってしまう。どれも流して見ることのできない絵ばかりなのだ。例えばひとつの部屋が多角的に描かれた連作《7:14》(2010)。視点をこちら側からあちら側へと変えたり、上から俯瞰したり、はたまた外側へ移したりして、焼き上がったパンがトースターから飛び出す瞬間の出来事を静かに切り取っている。なんてことのない日常の出来事に過ぎないのに、こんなにも多角的に描かれると、何かドラマティックな出来事のように思えてくるから不思議だ。ほかにも目のつけどころがユニークな絵が多い。きっと日常生活における観察力や、それに基づく想像力がたくましい人なのだろう。また物事をマクロ視したりミクロ視したりする、視座の移動が非常に柔軟であるに違いない。そのある意味、特殊能力的なものが彼には備わっているような気がしてならないのである。

展示風景 ギンザ・グラフィック・ギャラリー[撮影:藤塚光政]

展示風景 ギンザ・グラフィック・ギャラリー[撮影:藤塚光政]
本展は、そんな中村が広告や音楽業界で携わってきたポスターや映像、また絵本などをはじめ、今回新たに制作された作品も交えた展示内容となっていた。特殊能力と書いたのは、彼の洞察力が飛び抜けて高いからであり、実はそうした日常における観察力や柔軟な視座そのものは、デザイナーにとても必要な力だといえる。社会や人々が抱える問題を解決するには、その解決の糸口を見つけるためにさまざまな立場の人の視点に立ったり、マクロ視やミクロ視を試みたりすることが大切になる。なぜなら普段とは視点を変えることで、日常に潜む死角が見つかることもあるからだ。それによって新たな価値を生み出すことも可能になってくる。そうした点でデザイナーの手本のような作品だとも思いながら、一つひとつの作品の前で、彼の思考の海をたっぷりと堪能したのだった。

展示風景 ギンザ・グラフィック・ギャラリー[撮影:藤塚光政]
鑑賞日:2025/12/25(木)