
会期:2025年12月19日〜2026年1月12日
会場:池袋サンシャシンシティ 展示ホールB[東京都]
公式サイト:https://tokorozawa-sakuratown.com/special/naganomamoru/
注 一切装甲等にハイライトは入れないで!
カゲはドアップで2段まで。いかなる場合もBLカゲはつけないでくださいね!
画面みてっと何が飛んでんのやらさっぱりわかりましぇん!
つや消しのとそーだしねん
(「キュベレイ 1985年 デザイン画」の注釈より)
キュベレイとは、テレビアニメ『機動戦士Zガンダム』(放映:1985-86)に登場するモビルスーツ(作中における人型機動兵器の呼称)の名前だ。主人公たちの敵対勢力の指導者が乗り込み、続編まで登場する敵役の一機である。デザインは当時20代のデザイナー永野護が担当しており、上に引いた注釈はデザイン画を元にセル画を描くアニメーターたちに向けた言葉だ。角ばった形態のメカデザインが隆盛のなか、大きくなめらかな曲線で装甲が形作られているキュベレイは、作中の登場人物たちにとっても、視聴者にも、製作者たちにとっても異形なものだった。それゆえに、まず形態を明確に示すためのハイライトと影についての指示があり(2行目まで)、それが飛行シーンの描写に関わる問題だと指摘する(3行目)。最後に、この機体が「艶消しの塗装」であることが、以上の指示の根本にあることが説明されている(4行目)。2024年2月のEJアニメミュージアム(角川武蔵野ミュージアム内)を皮切りに、名古屋、大阪、福岡、東京と巡回してきた本展では、同様の注釈や書き込みが、さまざまな作品の原画に散見される★1。
『重戦機エルガイム』(放映:1984-85)ではロボットだけでなくすべてのメカ、キャラクターを永野はデザインし、現在に至るまで熱狂的なファンを持つヒット作に押し上げた。永野の思考は、例えば「『エルガイム』がなんで多重関節になっているかと言ったら、『ガンダム』の関節だと本当はアニメみたいに動かないから(笑)」★2と述べるように、機構や構造、見えない細部にまで徹底している。ただしこれは、想像のなかにしかないものを(設定や機構も含めて)正確にアニメで描く、ということではない。また、アニメで描かれる表象から逆算してそのものの設定や機構が決まっていく、という話でもない★3。興味深いのは、「艶消しの塗装」の注釈と同様、描かれるものの「本当」と、ものの描かれ方が、同じ地平で語られている点である。

「ザ・ナイト・オブ・ゴールド(原画)」(1986)の部分。漫画『ファイブスター物語』(1986-)に登場する主人公アマテラスの搭乗機で、着色のための指示が書き込まれている[筆者撮影]
どういうことか。人は画力の向上に伴い、自分の描いた表象が自分の想像するものを正確に表わしていないと思うようになることが多い。だが本来、描かれるものの「本当」と、ものの描かれ方は合致することはないのだ。
幼い子供の絵を想像してほしい。子どもはそれをトマトだと言う。色鉛筆でぐりぐりと描き重ねられ輪郭もおぼろげなその絵の表象はトマトには見えないかもしれないが、その子どもは「本当」を思い浮かべて描いている。もしそれが一般的に想像されるトマトの表象から外れていないとしても、描かれた表象がその子どもの想像する「本当」の正確な写しだとは言い切れない。子どもの場合は描写の拙さゆえに、「本当」のように描けていないと扱われやすいだろうが、表象と「本当」の間にあるギャップが本人のなかでどのように埋められているのか、つまり表象をいかに見ているのかは本人以外に知りようがない。
永野はその高い画力ゆえに、本人の想像する「本当」が絵として正確に描かれていると他者に受け止められているデザイナーだろう。しかし、それでもなお、描かれたものが永野の思う「本当」であるのかは疑わしい★4。というより、一枚の絵が示せるものは「本当」のうちごくわずかにすぎない。
(後編へ)
★1──本展の後半を占める『ファイブスター物語』(以下、『FSS』)を除き、前半の『重戦機エルガイム』や『機動戦士Zガンダム』などの展示物はすべて撮影禁止であった。
★2──『ユリイカ 2012年12月臨時増刊号 総特集=永野護』(青土社、2012)p.22、永野護インタビュー(聞き手:飯田一史)より。
★3──『機動戦士ガンダム』は永野の指摘するレベルまでの細部のリアリティは持ち合わせていなかった。しかし、プラモデルの商品展開が加速していくと、アニメの描写からディテールを詰めたり増やすように設定や機構が生まれていくのだった。同シリーズにおいては、正史と呼ばれる宇宙世紀の年表もまた、機構と同様に後から詳細化されていった。後述する『FSS』の年表とは対照的なあり方だ。
★4──永野は『FSS』を2004年から休載、映画製作や設定デザイン画・解説集『F.S.S. DESIGNS』の執筆に取り組んだ。2013年の連載再開は読者に大きな衝撃を持って受け止められた。すべてのメカがデザインを根本的に一新されただけでなく名称も変わり、当然その機構や設定のすべてが変更されたからだ。しかし、変わったのはデザインだけであり、物語は休載前の続きとして何事もなく進行していた。描かれる世界の内側にこの大改変は存在せず、ただ描かれ方の変化が起きたにすぎなかったのだ。単行本で言うと12巻と13巻の間にあるこの不連続こそ、永野の「本当」と描かれ方の関係性を端的に示しているのではないか。
鑑賞日:2026/01/04(日)