会場:Anderson Collection at Stanford University[スタンフォード, CA]
公式サイト:https://anderson.stanford.edu/

スタンフォード大学に付属するAnderson Collection at Stanford Universityは、20世紀後半のアメリカ戦後美術を概観するうえで欠くことのできないコレクションを有している美術館である。隣接するCantor Arts Centerとともに、研究・教育機関としての大学といかに接続されうるか、美術館という制度のあり方を伝承するような場所が築かれている。


[筆者撮影]

本館には、サンフランシスコ・ベイエリアを拠点とするアンダーソン家が約50年にわたり収集した120点以上もの作品が収蔵されている。ハリー・W・アンダーソンとメアリー・マーガレット・アンダーソン、そして娘のメアリー・パトリシア・アンダーソンによって築かれたコレクションは、抽象表現主義からポスト・ミニマリズムに至るアメリカ戦後美術の主要な動向を網羅する。特筆すべきは、1960年代半ばからアメリカ国内の作品収集を開始した彼らが、当時の流行であったポップアートやミニマリズムを追うのではなく、作家のアトリエへ直接足を運び、制作現場での対話を重ねることで作品を選定してきた点にある。彼らが収集の指針として掲げた「Head and Hand」というコピーは、革新的なコンセプトとそれを具現化する技術の双方が備わった作品の選定というコレクション全体を貫く基準となっている。

展示室で存在感を放つのはやはり抽象表現主義の作品群である。ジャクソン・ポロックの《Totem Lesson I》(1941)は、有名なドリッピング技法が確立される以前の作品であるが、図像と記号が画面上で解体され、重層的な形の集積へと変質している。また、フィリップ・ガストンが具象と抽象の表現を模索した1960-70年代の絵画の対比や、馬の絵画で知られるスーザン・ローゼンバーグによる、キュビスム的な身体の断片化と動的なストロークを共存させた《Patches》(1982)も、作家の変遷を示す重要な結節点として紹介されていた。さらに、モーリス・ルイスやジュールズ・オリツキーらによるカラーフィールド・ペインティング、ジョセフ・アルバースやエルズワース・ケリーによるハード・エッジといった抽象表現の系譜が体系的に網羅されている。

本展では、ロバート・セリエンの初期作品や再制作も紹介され、純粋な形式主義を探求するポスト・ミニマリズムの原点に触れる構成となっていた。巨大なテーブルや椅子といった日常的なオブジェクトを拡大し、鑑賞者の知覚を揺らがせるインスタレーションで知られるセリエンだが、初期作品においては極めて還元された形式でありながら、どこか不穏な気配が漂う美しさを探求している。日常的な事物が異様なスケールや質感へと変貌することで、親密さが不気味なものへと反転する、セリエン特有の造形言語がすでに現われていると言える。巨匠と呼ばれる作家の完成された代表作だけでなく、そこに至る作家の思考の軌跡までをも収蔵している点に、アンダーソン家の眼差しの深度が窺える。

戦後アメリカ美術といえばニューヨークを中心とする東海岸の歴史観で語られがちであるが、本コレクションは、西海岸のコレクターがいかにして同時代の表現を受容し評価軸を築いてきたかというパラレルな通史をも提示している。私的な情熱によって形成されたコレクションが大学という教育現場へと開かれることで、単なる作品の公開にとどまらず、アメリカ美術の構造を多角的に読み解くためのアーカイブとして機能していると言えるだろう。

鑑賞日:2025/12/27(土)