会期:2026/01/21~2026/03/29
会場:東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]
公式サイト:https://www.operacity.jp/ag/exh294/

過日の米国によるイラン攻撃で、世界はまた一段ときな臭い方向へ進み始めている。ちょうど4年前にロシアのウクライナ侵攻が始まったときから、この不安定な世界情勢に対して薄気味悪さをずっと感じていた。私たちは今、「戦前」を生きているのではないかと……。しかし国際秩序というのは急にではなく、徐々に破綻していくものである。この不安定な情勢に至るまでの間、世界のあちこちで不均衡が生じ、弱肉強食のような搾取があり、また貧富の格差が大きく広がっていたに違いない。そうした世界の表面化した出来事を冷静に捉え、アートへと昇華させているのがアルフレド・ジャーである。彼はチリに生まれ、渡米してニューヨークに拠点を移し、写真や映像、立体作品、インスタレーションなどを表現媒体に活動している作家である。


《アメリカのためのロゴ》(部分)(1987)[© Alfredo Jaar]

本展の中でも日本人として見逃せない作品だったのが、最後の展示《明日は明日の陽が昇る》(2025)と《ヒロシマ、ヒロシマ》である。前者は本展のために制作された新作で、米国と日本との二国間関係が表現された、実に意味深な立体作品だった。というのも床に日の丸が描かれたライトボックスが敷かれ、その真上に星条旗が描かれたライトボックスが吊り下げられた、シンプルな構造ながらも緊張感のある作品だったためだ。この上と下の構造が意味するところは「支配と従属の関係」と誰しもが読み取れる。そうか、米国に住む作家の目からもこのように見られているのか、と改めて日本人として複雑な気持ちにさせられた。一方でタイトルにある「陽が昇る」は「日出ずる処」を思わせ、歴史的な俯瞰と日本への敬意が示されているようにも感じる。ライトボックスの光は、太陽を示唆しているのかもしれない。


《あなたと私、そして世界のすべての⼈たち》(2020)[© Alfredo Jaar]

また後者はなかなか衝撃的な映像インスタレーション作品だった。ドローンによって上空撮影された広島の市街地が無音で映し出される。ゆっくりと旋回するドローンは、案の定、原爆ドームへと行き着く。最終的には原爆ドームを真俯瞰から捉え、ドームの骨組みだけをじっくりと鑑賞者に見せる。この仕掛けによって、鑑賞者はまるでB-29戦闘機「エノラ・ゲイ」の航空士になったかのような錯覚を抱く。しかも骨組みだけを眺めていると、それが原爆ドームであることが遠のき、まるで何かの無機的なアイコンのようにも感じられてくるのだ。さらに同作品は映像だけでは終わらない。この後の展開はぜひ自分で体験していただきたいのだが、このように世界で起こった凄惨な歴史や不条理な出来事を、鑑賞者の目にスッと重ねてくるのが彼の表現スタイルなのである。今だからこそ胸に刻みたい作品がいくつもあった。


《ヒロシマ、ヒロシマ》(2023)、広島市現代美術館での展⽰⾵景[© Alfredo Jaar 撮影: 花⽥ケンイチ]

鑑賞日:2026/02/23(月)