
会期:2026/02/21~2026/05/31
会場:市谷の杜 本と活字館 2階展示室[東京都]
公式サイト:https://ichigaya-letterpress.jp/gallery/000488.html
執筆と編集という職柄、私も普段から明朝体に触れて仕事をしている。書籍や雑誌、冊子などの本文にゴシック体を使うのはどうにも慣れないからだ。原稿を書く際にも、Wordで選択できる明朝体の種類は限られているが、そのなかでも自分が最も落ち着ける書体を設定している。その書体とは、ほっそりとしていて上品な印象のある「游明朝」で、今、この原稿を書いている際にも表示させている。調べてみたら、これはモリサワグループの字游工房によって作られた書体で、「時代小説が組めるような明朝体」をキーワードに開発されたらしい。こういう背景を知ると、たかが書体といえど、不思議と愛着が湧くものである。
しかし本展はそんな生半可な愛着ではなく、明朝体へのもっと深い愛が感じられる内容であった。まず、ヒラギノ明朝やリュウミン、本明朝など、現代の主要な明朝体の紹介があり、その字体や特徴の他、原図や実際に使用された印刷物などが併せて展示されていた。そもそも明朝体のエレメント(各要素)に、さまざまな名前が付いていることもよく把握していなかった。「ハライ」や「テン」「ハネ」などは想像がつくが、「横棒」の右端に付く三角の部分(毛筆でいえば止めの部分)を「ウロコ」というなど、独特の名前もある。全体のバランス感やそうしたディテールに目を凝らしながら一つひとつの字体を眺めていると、さまざまな違いがぼんやりとではあるけれど見えてくる。ユニークだったのは、展示の導入部でこれらの書体がパズルになっていたことだ。オス型とメス型のピースが合致するとすっぽりとハマる仕組みで、私も実際に触って楽しく遊んでみたが、しかし書体名を見てその字体をすべて当てられる人なんて、プロのグラフィックデザイナーのなかでもごく一握りになるのではないか。

展示風景 市谷の杜 本と活字館 2階展示室
さらに150年以上にわたる明朝体の歩みを、時代をさかのぼりながら年表上で紹介しており、その情報量ときたら圧巻だった。明朝体の二大潮流とされるのが「築地体」と「秀英体」であるとか、まったく知らない情報ばかりであったが、何より驚いたのは明朝体だけでこんなにも多くの種類が存在するという事実である。なかにはじっと見比べなければわからないほどの些細な違いもあるが、その違いをプロは見分け、使い分けてきたのである。日本の出版文化の豊かさを改めて知る良い機会となった。

展示風景 市谷の杜 本と活字館 2階展示室

展示風景 市谷の杜 本と活字館 2階展示室
鑑賞日:2026/02/27(金)