会期:2026/01/17~2026/02/01
会場:東葛西1-11-6 A倉庫[東京都]
公式サイト:https://www.instagram.com/p/DTIchxzifiZ/

前編より)

「Tiger Question」展示風景[写真提供:東葛西1-11-6 A倉庫]

石井と大﨑の絵画を見て、そして考えることは、このように画面内の状況を整理しつつ、時には図像の歴史的文脈に遡行する行為である。これは言い換えれば、自らが知覚する時間と、そこから解釈される観念が持つ時間が分裂するということだ。石井の《過去派の犬のダイナミズム》(2026)[図5]はそうした絵画体験についての説明を与えてくれるだろう。この作品は楽譜のペダル記号を座る犬に見立て、それがイタリア未来派のジャコモ・バッラ《鎖に繋がれた犬のダイナミズム(Dynamism of a Dog on a Leash)》(1912)に描かれた犬と円環上で次々に交替していくさまが描かれる。ここで私たちは実際に絵画を知覚しつつも、その飛躍する図像的変容は、持続する知覚を分裂させ、別の観念を想起させる。ここでは音楽記号がいつの間にか美術史へと接続される自由な連想の裂け目から、絵画が措定されている。

図5 石井佑果《過去派の犬のダイナミズム》(2026)[写真提供:東葛西1-11-6 A倉庫]

ステートメントにあるように、展覧会タイトルの「Tiger Question」とは室町時代の禅僧、一休宗純の幼少期のエピソードから取られている。一休は足利義満に呼び出され、虎が屏風を抜け出し迷惑してるから退治してほしいと言われ、縄を持ち「捕まえますから虎を屏風絵から出してください」と切り返したという。この逸話を義満の立場から改めて考えてみると、彼はもしかしたら、実物の虎を一度見てみたかったのではないだろうか。日本に野生の虎は存在しないため、義満にとってそのイメージはフィクションそのものだったのだ。ここにおいて、虎と絵画はイコールによって結ばれる。

「制度化されていない周縁にあるものを積極的に取り込み、連想ゲームのようなゆるやかな想像力を駆使」★5する石井と大﨑の仕事は、梅津庸一が「夏への扉 マイクロポップの時代」(水戸芸術館現代美術ギャラリー、2007)に参加した画家たちに影響を受けた国内の絵画の傾向として命名した、「フラジャイル・モダン」的なマニエリスムと無縁ではいられない。しかし、ここまで見てきた石井と大﨑の仕事において活用される、数々の語彙から生まれるナラティブは、そのようなドメスティックな隘路をかいくぐっている部分もあるはずだ。「おもしろいえのさき」★6を標榜する二人が目指しているのは、そのような地平にほかならない。

石井佑果《untitled》(2026)[写真提供:東葛西1-11-6 A倉庫]


★5──梅津庸一「台頭する日本画の正統とフラジャイル・モダン第二世代──京都絵画シーンをめぐって」(『美術手帖』2020年12月号、美術出版社、2020、p.103)
★6──同展のステートメントは、パラグラフの先頭がひらがな表記になっている。縦読みでそれらをつなげると「おもしろいえのさき」と読むことができる。

参考資料
・谷川渥「絵画の時間論 序説」(中村高朗+虎岩直子編著『記憶と芸術 ラリビントスの谺』法政大学出版局、2024、pp.54-69)
・東葛西1-11-6 A倉庫(Instagram):https://www.instagram.com/efag.css/

鑑賞日:2026/01/23(金)