会期:2024/03/09~2024/06/30
会場:DIC川村記念美術館[千葉県]
公式サイト:https://kawamura-museum.dic.co.jp/art/exhibition/

カール・アンドレ――。この硬質な響きを持つ名前は、どっちかというとアーティストよりプロレスラーにふさわしい。かつて妻の殺人容疑で起訴されたくらいだから、強面の大男を思い浮かべるかもしれない。肝腎の作品も鉄板や石や木材を床に置いただけの無骨なミニマルアートだし。でもミニマルアートのもうひとりの雄ドナルド・ジャッドの理詰めの鋭利さに比べれば、どこかゆるさ、ぬるさを感じてしまう。そんなカール・アンドレの日本初の大規模な個展である。

壁を取っ払った広大な展示室に、四角い鉄板や木材を並べたミニマル彫刻がボソッボソッと置かれている。正方形の鉄板を縦横4×4枚ずつ床に敷きつめたり、L字型鉄板21枚を壁に沿って並べたり、直方体の角材を階段状に積み上げたり、充実した殺風景だ。アンドレの作品がほかのミニマルアートと異なるのは、先述のようにゆるさ、ぬるさを感じることだ。美術作品は一般に触ったり乗ったりすることはできないが、アンドレの床に敷いた鉄板作品はその上を歩くことができる。だからどうということでもないが、少なくとも見るだけより記憶に残る。

「カール・アンドレ 彫刻と詩、その間」展 展示風景[筆者撮影]

ただ作品の上を歩けば汚れるし、傷がついたりもする。余計なものを取り払ったミニマルアートは新品の工業製品のようなもので、表面が汚れたり傷ついたりするのを避けるし、もし汚れを見ても見なかったことにする。ところがアンドレの彫刻は多少汚れていたり傷ついていたりしても気にならないというか、むしろそれがアンドレらしさを保証するのだ。同様に、鉄板がぴったり合わなかったり、角材が多少反ったりしてもあまり気にしない。おおらかなのだ。また、彼の作品は重量があるため、遠くの会場で展覧会を開くときは作品を運ばず、現地で同じものを制作し同じ作品として扱うこともあるという。合理的というか、柔軟というか、いいかげんというか。その意味ではミニマルアートより、もの派に近いのかもしれない。

ゆるさのきわめつけは「小さな彫刻」だろう。これは貧しかった駆け出しのころから拾ってきた木片や金属の端材などで制作してきたもので、「大きな彫刻」をそのままミニチュア化したかたちだ。といってもこれらは大作のマケットでも、商品として売るためのマルチプルでもなく、独立した作品として位置づけられている。カール・アンドレ、名前に似合わずかわいい。

鑑賞日:2024/03/08(金)