批評家バーバラ・ローズが、のちに「ミニマル・アート」と呼ばれるようになる傾向に与えた名称。1960年代のはじめ、多くの批評家がその傾向の「名付け親」になろうと先を競うなかで生まれた名前のひとつ。ローズは1965年、この名をタイトルとしたエッセイを発表する。もっともそこに「ABCアート」についての明確な定義はない。そこで彼女が試みているのは、「空虚で、中性的で、機械的で、非個人的な」、そして「明らかに感情や内容を欠いている」作品(イヴォンヌ・レイナーのダンスやラ・モンテ・ヤングの音楽も含まれる)のあたらしい感受性を、さまざまな他者の言葉(パノフスキー、ロブ=グリエ、ヴィトゲンシュタイン、マクルーハン……)を引用しながら、ゆるやかに包囲することである。またそれに先だって、このABCアートの系譜が明らかにされている。それによると、まずそのルーツとして、マレヴィッチとデュシャンのふたりがあるという。またこのあたらしい感受性は、抽象表現主義の激しい筆致に対する反動だともいう。ローズによるこうした理解は、当時の最大公約数的なものと見ることができるだろう。けれどもそれは刺激には乏しい。
(林卓行)
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