ニューヨーク近代美術館(MoMA)の初代館長A・バーJr.によると、もともと「抽象表現主義」とは第一次大戦後のヨーロッパにおける周縁的な絵画運動を指していたらしいが、言うまでもなく現在この用語は、第二次大戦直後にいわゆる「ニューヨーク・スクール」を形成したJ・ポロック、A・ゴーキー、M・ロスコ、B・ニューマンらが担った絵画運動を示すものとして用いられる。「キュビスム」的な空間構成、オールオーヴァーな色面、見る者を包み込む“場”の形成など、「抽象表現主義」の絵画がもたらした成果は極めて卓越しているが、そのことを踏まえてもなお、この動向を語る際にはある種の政治性を免れることができない。というのも、ちょうどこの時期に美術の拠点がパリからニューヨークへと移行したとされる「二都物語」を、肯定するにせよ否定するにせよ、「抽象表現主義」はその試金石としての位置を占めているからだ。M・タンジー《ニューヨーク派の勝利》(1984)を参照されたい。なお、「カラーフィールド・ペインティング」「ポスト・ペインタリー・アブストラクション」「ハード・エッジ」「システミック・ペインティング」という呼称をもつ一連の動向は、いずれもこの「抽象表現主義」のなかにある。
(暮沢剛巳)
関連URL
●J・ポロック http://www.dnp.co.jp/museum/nmp/nmp_j/people/j-pollock.html
●A・ゴーキー http://artscenecal.com/ArticlesFile/Archive/Articles1997/Articles0297/AGorky.html
●M・ロスコ http://www.dnp.co.jp/museum/nmp/nmp_j/people/m-rothko.html
●B・ニューマン http://www.artcyclopedia.com/artists/newman_barnett.html
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