空気・大気を制作素材と見立てた美術作品、もしくはそのような雰囲気をキャンヴァスの上に再現した美術作品の仮称。テクノロジーが進歩した現在でも、空気・大気を制作素材と見立てるのはひどく困難なことであり、ために現在に至るまで「エア・アート」とカテゴライズしうるだけの作家作品群は生まれていないが、J・オリツキーの「私の理想の絵画とは、エアスプレーから発した絵の具が大気中に留まっている状態だ」という言葉は、この理想が古くから存在することを物語っている。そして、J・ポロックらがキャンヴァスの上に絵の具の飛沫を散布することで追求しようとした「支持体から自由な色彩」もまた、「エア・アート」の理想を現実と妥協させた産物ととれなくもない。純粋な線や色彩を物質として捉えようとする抽象表現主義の理念は、恐らくキャンヴァスを遊離した「エア・アート」の実現によって初めて完遂されるものなのだ。そしてその意味では、ブース内の柔らかな空気と色彩で観者を包み込もうとするJ・タレルの《ローデン・クレーター》もまた、一種の「エア・アート」と呼ぶことができる。
(暮沢剛巳)
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