色彩とは光が網膜を刺激し、大脳の視覚中枢に伝えられた興奮が生じさせる感覚である。太陽光をプリズムで分光してできる7色のスペクトルをもとに基本的3属性(色相、明度、彩度)によって表わされる。われわれが通常目にする色は、光源の光よりも物体の反射光の方が多いが、なかでも絵の具の色彩は、光に照らされて表面から光を生じる表面色である。画家がキャンヴァスに対象を再現する際、この色彩は素描と並んで対象の3次元的遠近感を創出する重要な手段となってきたが、色彩と素描のどちらに重きを置くかは(例えばデッサン派のアングルと色彩派のドラクロアのように)しばしば論議を呼んできた。近代以降、色彩は遠近法に従う厳格な空間構成、対象の再現的表象から絵画を解放する要素として捉えられるようになる。特にモネを中心とする印象派は、物体の固有色を否定し光によって移ろう対象の色彩を表現することによって、形態から独立した色彩表現の可能性を準備した。さらにマティスに代表されるフォーヴィスムは、対象そのものから色彩を解放し、画面における色彩相互の調和関係を追求するようになる。これらの絵画は戦後のアメリカにおける色面抽象やカラーフィールド・ペインティング、ヨーロッパを中心とするモノクロームの作品に影響を与え、支持体を色彩あるいは単色の色彩で覆い尽くすことによって既存の「絵画」の枠組みを解体しようとする動向を生み出した。
(平芳裕子)
|