「全面を覆う」という意味の英語だが、美術用語としての「オールオーヴァー」は、1940年代後半頃、「ドリッピング」や「ポアリング」といった技法を開拓したJ・ポロックの画風に代表される、一見均質に見える多焦点的な抽象表現主義絵画の傾向を示す。いち早くこの傾向に注目したW・ルービンやL・アロウェイは、そこに「イメージの単一性」や「全体論的性質」といった特性を指摘した。この傾向は、キュビスムのような立体的な空間構成とはまったく別の発想によって絵画の構図から統一的焦点を追放しようとしたものであり、P・モンドリアンが第一次大戦期に制作した「プラス・マイナス絵画」にその起源が求められる一方で、S・アンタイらの「プリアージュ」のような技法とも多々共通する側面をもつ。絵画の物質性を強調するという点では、ミニマリズムを先取りする動向だったという評価も成り立つだろう。
(暮沢剛巳)
関連URL
●ポロック http://www.dnp.co.jp/museum/nmp/nmp_j/people/j-pollock.html
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