美術作品の条件として批評家M・フリードが提示した概念。ここで彼はD・ディドロに代表される18世紀の芸術理論のキー・タームを参照しているが、これをフリード特有の概念として捉えた場合、この語に含まれる「劇場(theatre)」の意味を強調し「反劇場性」という訳語を当てることもできる。そもそもこの概念は、フリードが1967年の論文「芸術と客体性」でミニマリズムを批判するために用意した「演劇性」という語彙に「反」という接頭辞を付けることによっていわば事後的に設定されたものであり、以後、彼にとって、自らの擁護するモダニズムモダニズム芸術のもつ反演劇性あるいは「反リテラリズム」をどのように記述していくかが課題となってくる。ミニマル・アートのように作品のあり方が観者に対して開かれ委ねられたとき、フリードはそこで生じる観者と作品との一対一の主客関係によって、作品が「客体性(objecthood)」を帯びることを批判した。そしてモダニズムの「自律」の概念系のもと、芸術作品はその内部で「価値を閉じる」と彼は言う。また、18世紀の絵画分析『没入と演劇性』(1980)で彼は、例えばJ=B・グルーズやJ=B・S・シャルダンらの絵画に見られる、何かに「没入(absorption)」する人物等の表象によって創作された「至高のフィクション」あるいは「ピクトリアル・ドラマ」を反演劇性の所産としている。フリードは「観者をあたかもそこに存在しないかのように扱う」芸術として、同時代の芸術家たちの達成と、18世紀の画家たちあるいはG・クールベの芸術とを結びつけた。
(上崎千)
関連URL
●J=B・S・シャルダン http://artchive.com/artchive/C/chardin.html
●G・クールベ http://www.ocaiw.com/courbet.htm
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