R・マグリットの同名の絵画作品を分析したミシェル・フーコーの絵画論。当初この論考はフランスの映画誌『カイエ・デュ・シネマ』に掲載されたが(『美術手帖』1969年9月号には、宮川淳によるその版からの抄訳が掲載されている)、その後改訂と増補を経て、73年に単行本として刊行された。キャンヴァスにパイプのシルエットを描きつつ、「これはパイプではない」と人を食った題をつけたマグリットの意図から、フーコーが考察するのはresemblance(類似)とsimilitude(相似)の差異であり、両者の差異の因子を「物はお互いの間に相似を持たず、相似を持つか持たないかのどちらかなのです……類似していることは思考だけの持ち前です」(同訳書102頁)と「思考」の有無に見出している。この「類似」と「相似」の相違は、「オリジナル」と「コピー」、「原典」と「翻訳」の関係などさまざまな問題へと展開する契機を孕んでおり、すでに多くの解釈が提出されている。小品だが、精巧な絵画論であると同時にポレミカルな思想書ともなっている名著である。
(暮沢剛巳)
(邦訳=豊崎光一+清水正訳、哲学書房、1987)
|